賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
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競争力の生命線が知的財産であるという認識が広がり、知財経営が注目される中、未だに知財問題は特許出願の担当者の問題だと考える経営者が多いです。こういった中、コーポレートガバナンスコードに知的財産に盛り込まれ、知財マネジメントに関するISOも策定されるなど、経営を巡る環境は大きく動きつつあります。
知的財産権をどう使うか、知財経営をどう行うか。初代長官の高橋是清以来130年知財を通じて日本のイノベーションを応援し続けてきた特許庁の担当者(小見山康二氏)が知的財産政策の最新の情報をファクトに基づいて分かりやすく解説下さいました。
講演内容
我々特許庁では、特許権、商標権などを含む知的財産が日本の経済を成長させるイノベーションのSEEDとなる非常に重要な政策を行っています。近年、知的財産に対する関心は高まり、民間事業者におかれましても、経営戦略上ビジネスの重要なファクターとして今後どのように活かしていくのか、また知的財産に関する権利を取り巻くトラブルからどのように回避するのかというコーポレートガバナンスの面においてもお困りの声が多く聞かれるようになり、ますます知的財産の重要性が認識されるようになりました。
物と違って、情報はその帰属が不明確であるうえに、複製も容易であり、仮に盗用されても自分の情報だと主張することが難しいとされていますが、その情報や技術を保護するために知的財産権があります。知的財産権を活用する目的として二つ、一つは模倣品排除であり、もう一つは自己実施もしくはライセンス付与あるいは知財権の譲渡です。知的財産権の中でも特許権、実用新案権、意匠権、商標権を特許庁が所管しています。
知的財産とは知的財産基本法によって次のように定義されています。“発明、考案、植物の新品種、著作物そのたの人間の創造的活動により生み出されるもの“ “商標、商号その他事業活動に用いられる商品または役務を表示するもの” ”営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報” とあります。
近年では、企業が研究開発し製品化したものを複数の特許によって守っていく「知財ミックス」が行われています。例えば、キッコーマンの「しぼりたて生しょうゆ」という製品においては、包装用容器の注出口の機能に関する特許権、またはキャップの形状に関する意匠権、容器全体の形状の意匠権、さらには商品名に関する商標権などを取得し、一つの製品を複数の権利で守っていくということであります。
このように、知財経営の重要性を認識されている企業も増えてきている一方で、その具体的な内容や対応策に関しては今ひとつ分からないという企業の声も聞かれます。例えば、競合企業の権利取得状況の把握や周辺特許の取得やノウハウの権利化など、自社製品開発に精通しているものの、いざ商品化しようとした時にそれらが躓きの石として頓挫してしまう懸念があります。また、大学との共同研究開発を進めていく上で、大学側が出願前に学会発表していないかどうか、あるいは大学とのライセンス契約の際、そのライセンスが他の企業との共同開発したものでないかどうかなど、抑えておくべきポイントがあります。
販売開拓として海外進出を検討する際も、海外展示会を催す前に商標登録を取得しているかどうか、あるいは海外の企業とのライセンス契約の際、改良技術の実施権を取得しているかどうかなど、自社製品を保護し権利を侵害されないようなあらゆる対策を講じる必要があります。また、契約解消後の技術利用に関しても取り決めを行っているか、開発者との職務発明規定を定めているか、秘密情報管理が行われているかなど、生産面においてもしっかりと抑えておかなければなりません。
これらを踏まえた企業価値の向上に資するガバナンス管理の側面と同時に、競争力の源泉として、年を追うごとに様々なフェーズで知財経営の重要性が増してきています。米国においては、上場企業主要500銘柄におけ市場価値に占める無形資産の割合は有形資産より上回っていますし、企業と投資家の関係において、知的財産に関する情報開示が持続的共同利益や社会的価値を創造する重要な指標の一つとして、企業と機関投資家を繋ぐ価値協創ガイドラインの提示が謳われています。
このような現状において、我々特許庁も日本の企業の皆様を支えるべく様々な支援策を講じています。知財分析レポートを用いたマッチング調査においては、令和2年度のマッチング成功率は8割を超え、特許情報がビジネスマッチングに活用できることを実証したところでもあります。また、公取委の調査によって明らかになった大企業との片務契約を(知財搾取の疑い)を防ぐためのモデル契約書作成(実態調査によって明らかになった問題事例に対する具体的な対応策)も行っています。
そして、全国47都道府県に知財総合支援窓口を設置し、知財に関して無料で相談を受け付けており、INPIT(工業所有権情報・研修館)が研修などを行う支援やアドバイスも行っています。中でも、創業スタートアップに対し、専門家によるメンタリングを実施することで、適切なビジネスモデルの構築や知財戦略の構築を支援する知財アクセラレーションプログラムも用意しています。
また、制度上においても、中小企業からの国内出願やPCT国際出願の納付額が1/2に減免されるよう講じるとともに、外国出願にかかる費用の助成も行っています。手続き上の不便な点においては、今後改善すべく検討していきます。我々特許庁としましては、中小企業やベンチャー企業の知的財産が日本のイノベーション、経済成長のエンジンになるべきであり、今後もしっかりと支援していこうと考えています。
*J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)はこちらから → https://www.j-platpat.inpit.go.jp
◆小見山康二 氏 プロフィール
平成4年に東京大学法学部を卒業後、通商産業省(当時)に入省。主にエネルギー・環境、通商、製造業等の分野での政策立案に従事し、令和2年7月から現職。直前は、内閣府規制改革推進室において、農業改革、デジタル著作権改革、押印見直し等を担当。過去に在米日本国大使館や徳島県警察本部への出向も経験。