賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
受付時間 平日9:30~18:00
メンバーズスピーチでは、この社会の状況を鑑み、特別スピーカーとして東京都医師会常任理事(医療支援担当)であり、順天堂大学医学部教授でもある小林弘幸先生にご登壇いただきました。この直面する国難の中で、医学界のキーマンに倶楽部メンバーへの特別メッセージを頂きました。
また、スペシャル講演は、日本経済新聞の世論調査でも、次期首相候補ナンバーワンと人気が高く、今その言動がますます注目される石破茂氏をお迎え致しました。猛威を振るう新型コロナウイルスの日本や世界経済への影響、もう待ったなしの人口減少問題および地方創生、安全保障、また日本の国家としてのサスティナビリティなど、石破氏の日々の想いを語っていただきました。
講演内容
私は元々、政治家になるつもりはありませんでした。政治家であった父親の無二の親友だった田中角栄元総理から父の死後に「お前は政治家になるんだ。お前がならないでどうするんだ」と強いお声掛けを頂き、29歳で立候補、当選させていただきました。あれから34年が経ち、当選回数11回、衆参合わせて上から13番目の長きに渡り議席を頂いてきました。十分にできすぎた人生ですが、昨今の新型コロナウイルスによる社会の有り様、世界の有り様、日本の有り様を見るにつけ、次の世代にはしっかりした日本を残したい、という思いを強くしています。
今回、我が国の脆弱性に改めて気づかされ、これを機に、日本や世界の在り方を強い意志で変えていかねばならないと思っています。「戦争を知っている者がいなくなった時、戦後が終わる」と言われましたが、まさに平成の時代は「戦後が終わった」時代だと思います。
また、本来あるべき資本主義が相当に変質した時代でもありました。必要なところにお金が回らず、国家間の格差は縮小するも、国内における格差は拡大する一方です。その間、民主主義の変質も著しいものでした。民主主義とは時間やコストがかかるものですし、出来る限り多くの人々が参加することが民主主義社会における前提条件ですが、今や投票率は過半数を割っています。特定の思想、特定の利益で繋がる者が比較多数となって、政治を左右することになれば、それは本来の民主主義からはかけ離れたものとなります。
民主主義が成り立つには、多様かつ正確な情報が得られることも絶対条件ですが、過去を振り返ってみると、多くの国民が日米開戦を支持し、無謀な太平洋戦争に突入し、ほとんどのメディアが戦争を煽りました。開戦前、当時の陸・海軍や産官学の若手エリートたちが一堂に会し、あらゆる分析を行って、総力戦になればアメリカには絶対に勝てないという結論を得たのですが、結局当時の政権はこれを一顧だにせず、その情報は国民の前に明らかにされることもありませんでした。
正確な情報の伝達、健全な言論空間の確保、言論の自由の保障は、いまでも注意深く配意しなければ損なわれる可能性があります。事実がねじ曲げられたり、伏せられたり、改竄されたりするようなことは、民主主義の危機に直結します。また、多数決に驕ることなく少数意見を尊重することも、健全な民主主義には必要です。私が閣僚を務めさせていただいていた間は、国会の質疑においてもなるべく理解を得られるように努力することを旨としていました。意見を異にする野党議員であっても、その後ろには10万人以上の国民がおられることを思えば、与党として納得をいただくことは当然だと教えられてきました。
そして、新型コロナウイルスによって脆弱さが露呈した現在、日本の設計図を根本から書き換えねばならないと思い、そのことを多くの国民の前で語る勇気と真心を持ちたいと思っています。
日本の最大の課題は急激な人口減少です。いま1年に45万人ずつ減っており、このまま何もしなければ、やがて年に100万人減っていく時代がやってくるでしょう。このまま推移すれば、2100年には5200万人に、200年後には今の10分の1、1391万人になると言われています。
我々はいかにして生産性を高め、付加価値の総和を増していくかを考えねばなりません。日本ほど第一次産業に向いている国はなく、第一次産業が持つ潜在力を最大限に高める余地が多くあります。第一次産業のみならず、地方の持っている潜在力を最大限に引き出していくことは日本全体の社会、そして経済にとって重要なことです。これ以上の東京一極集中は許容できません。
そして、社会を変えるためには、税の在り方ももう一度考え直すべきです。消費税が導入された時、私は大賛成の論陣を張りましたが、当時はまだ人口も増加傾向にあり、給与所得も増えており、格差も今のように開いてはいませんでした。当時と今の消費税の役割は、当然変わってしかるべきです。
今回の新型コロナウイルスに関しては、感染拡大と医療崩壊を防ぐことが第一だと思っています。そのためにまずはマイナンバー制度を活用し、すべての国民の皆さまに補償した上で、厳格な移動の制限によって感染を最小限に抑えるべきだと考えます。
Q:日銀による金融緩和の出口戦略は、新型コロナウイルス収束後、どのようなことが必要か
A:与党の政治家として軽々に発言できないが、この異次元金融緩和の規模が余りに大きく、出口への道筋は非常に難しく、急激な引き締めは大きなショックをもたらす危険があります。ただ、政治の役割として、社会保障の中身を再構築することと金融緩和の出口を模索することは一体であると考え、新しい社会保障の姿を早く確立することが政治の責任だと考えています。
Q:新型コロナウイルス対策について、地方自治体の若い首長の独自の動きが非常に重要な気がするが
A:今回の緊急事態宣言は地方自治体に対して様々な権限を法的に担保するためのもので、であればこそ、それぞれの自治体の力量と住民との信頼関係が問われていると思います。
Q:議員定数について
A:少なければ少ないほど良いという考えは、最終的には行政の暴走を許すという意味で独裁を招きかねないものです。しかし、ただ増やせばいいというわけでもなく、議員がどのような仕事をしているのか有権者に関心を持っていただく努力が必要です。そして国民にとって必要な議員とはどのようなものなのかを主権者が議論していくことも大切です。選挙の時だけではなく、日頃から注視していただきたいと思います。
Q:新型コロナウイルスが安全保障環境の変化にどれぐらい影響を与えるか
A:アメリカの原子力空母がコロナの影響によって東シナ海海域から引き上げている現状に鑑みれば、どのようにバランス・オブ・パワーを保つかにつき、以前よりも配意が必要です。このような状況下であっても日米同盟の抑止力がいささかも毀損されることがないよう、注視し管理していく必要があります。
◆石破茂氏 プロフィール
慶應義塾大学法学部卒。1986年、衆議院議員に全国最年少で初当選。
以後、11期連続当選。防衛大臣、農林水産大臣等を歴任し、2014年に初代地方創生・国家戦略特別区域担当大臣に就任。
『国防』『国難:政治に幻想はいらない』『日本人のための「集団的自衛権」入門』『日本列島創生論 地方は国家の希望なり』など著書多数。
新型コロナウイルスによる世界の感染者数の現状は全体で約160万人と言われ、約9.5万人が亡くなったと言われています。その致死率は6%です。ちなみにインフルエンザによる致死率はは約1%未満で、日本は予防接種のおかげもあり0.1%未満です。逆に言うと、新型コロナウイルスの致死率はかなり高いと捉えています。
中でも欧米諸国は高く、欧州が10%を超えているが、ドイツは2%程度で低く、日本と同じぐらいです。その理由のひとつは人工呼吸器の保有がイタリア、スペインよりも5~8倍多いことと、もうひとつは、日本とドイツは人口1000人あたりのベッド数が非常に多いので、ある程度重症感のある患者を診る環境が整っているのではないかと考えています。
日本の致死率は2%弱で低いですが、67%の方が感染経路不明です。これはかなり怖い状況です。患者がどこで移されたか分からないということは、自分の周りに陽性患者がいてもおかしくないということなので、明日は我が身なのです。
今回のウイルスの特徴は、下気道という肺の近くで活動するため、肺にダメージを与え、そこに問題が起こると悪化する可能性があります。ただし、8割の人は症状が出ないか、あるいは軽いですが、これが怖いのです。つまり、知らずに感染し、そこを媒介として色々な方に移している可能性があるということです。症状が出ないと、たいしたことないかのような錯覚に陥り、結果として知らずに蔓延してしまうのです。
私の診ている外来では、多くの患者の発症環境は、小池都知事の仰る、三密(密集・密閉・密着)が殆どなので、この三密を避けなければいけません。初期症状としては、ほとんど風邪と一緒で、微熱(37.3度~38度ぐらい)が6~7割、咳が5~6割で、中には下痢の症状も見られます。この時期に似たような溶連菌感染症という疾患があり、新型コロナウイルスの疑いで検査をしても陰性の場合があります。
若い方に多い症状としては、味覚障害、嗅覚障害があります。風邪のような症状で味覚、嗅覚に異常を感じた場合は気をつけましょう。もちろん、このような症状が=新型コロナウイルスとは限りませんが、当初、若い人はかからないとか、かかってもたいしたことがないという情報が広がっていました。しかし、決してそのようなことはないということをデータが示しています。急変する若い方もいるので、皆さんの周りの若い方で平気だと言っている方には、気をつけるようお伝えいただければと思います。
では、疑いがある時にどうすればいいのでしょうか。いきなり病院に行くのはやめたほうがいいです。それは二次感染、三次感染を防止するためです。かかりつけ医に相談するか、これから行こうとする医療機関に電話をしましょう。どうしても連絡が取れない場合は、地域の保健所に連絡をしてください。
その一つの目安は37.5度の微熱が4日以上続き、呼吸障害があるか、呼吸の回数が増えるか、なんとなく息苦しいとか、咳が止まらなくなるなどの症状の場合は必ず病院にかかり、検査、治療しないと、あっという間に悪くなる場合もあります。
メディアでは、医療崩壊の懸念が叫ばれていますが、もうすでに病院の電話が繋がらない、新型コロナウイルスの疑いがあっても次の病院になかなか回せない、通常診なければいけない疾患の診療に人員を割けない、手術件数や検査件数が減らされるなど、医療崩壊は起きています。
いま私たちがすべきことは行動変容です。人々の行動変化によって維持されることなので、感覚を変えていただきたい。重症になることがあるという理解のもと、「STAY HOME,STAY ACTIVE,STAY POSITIVE」です。東京都医師会では、とにかく「6週間みんなで頑張ろう」と訴えています。
最後にお願いがあります。運悪く新型コロナウイルスに罹ってしまった患者さんに対する冷たい対応は是非ともやめていただきたいと思います。なぜなら、皆さん誰しもがいつ何時かかってもおかしくないのですから。みんなが力を合わせて頑張ることが重要です。
Q:自宅待機・家庭内でのストレスについて
A:外来を診ていると、患者さん全員が不安になりメンタル的に弱り、どうしても鬱傾向になりがちです。心に余裕がなくなり、DVや虐待に繋がるのは、新型コロナウイルスの二次被害と言えます。どうすべきかというと、ニュースばかり見過ぎるのはやめたほうがいいでしょう。過度な情報よりも家庭内でのコミュニケーションが大切です。そして、室内運動をしたり、心の余暇になるものを見つけましょう。
Q:感染後、抗体ができれば再感染しないのか
A:現時点では何も言えません。一般的には獲得免疫があり、再感染しないと言われるが、このウイルスの全容が掴めていないので、その獲得免疫が残留するのか消滅するのか分からないのです。
Q:世界とは違って、日本のみクラスター対策等に拘っていて、うまくいってるように思えないが
A:非常に難しい問題です。ただ、今、責任を追及する時ではないと思います。第一波の時はクラスターを追えると思っていたので、ある程度制御できると考えていましたが、今はフェーズが変わり、経路不明の患者が出てきたことで、これを抑えようとしており、PCR検査を積極的にやる段階に入りました。対応が甘いと言われるかもしれませんが、総合的な判断です。大事なことは、国が決めたこと、都が決めたことの中でしっかりやることです。
Q:無症状感染の場合、治癒の判断は
A:まずPCR検査で陽性で軽症であれば、PCRで陰性になることである程度治癒したと判断していいと思います。PCR検査無しの場合は、各社検査キットが開発されているので、それによって自分自身の状態を把握することが近い将来可能になってくると思います。
Q:高齢者は若い頃受けたBCGを再度受けるべきか
A:イタリアとスペインではBCGを打っていないので感染者が多く致死率も高いのに、隣のポルトガルではBCGをやっているので感染者が少ない、または日本でもBCGを打っていない高齢者の方が亡くなっているのではないかと言われています。しかしながら、効果がまだ不確定で適応のない成人に用いられている現状があり、その結果、BCG予防接種が必要な乳幼児の分が不足し、需要と供給のバランスが崩れるので、絶対にやめていただきたい。BCGを再度接種することがコロナに効くのかという検証は全くされていないだけでなく、それによる副作用も起こりえるので、見切り発車的に接種することはお薦めしません。
Q:一旦治癒した人がくしゃみなどの飛沫で他者を感染させることはないか
A:一般的には、一度ウイルスが消えて完全に治癒したということが確定しているならば(PCR検査で陰性)、その心配はないと思います。ただ、このウイルスの全貌はまだ未解明なので、マスクなどの予防対策は必要です。
◆小林弘幸氏 プロフィール
1960年、埼玉県生まれ
1987年、順天堂大学医学部卒業
1992年、同大学大学院医学研究科修了
ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。自律神経研究の第一人者としても知られており、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。
また、順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”でもあり、みそをはじめとした腸内環境を整える食材の紹介や、腸内環境を整えるストレッチの考案など、様々な形で健康な心と体の作り方を提案している。
同大学院にて病院管理学(医療安全・感染対策・健康管理)を指導。