賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
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第一部は、当俱楽部の発起人で世界的建築家の安藤忠雄氏にスペシャルトークにご登場いただきました。昨年、新国立美術館で開催された「安藤忠雄展 ―挑戦― 」には約30万人を動員。現在も休むまもなく世界各国で精力的に仕事を重ね、新たな挑戦を続ける安藤氏のスペシャルトークです。
第二部は、米国立がん研究所(NCI)主任研究員の小林久隆氏によるスペシャル講演が実現しました。オバマ前大統領が「偉大な研究成果」と称賛する新たながん治療法「近赤外線光免疫療法」を開発した小林氏。世界が注目する研究者による医療の最前線のお話をうかがいました。
講演内容
人生100年時代を迎え、何よりも元気で長生きしなければいけませんが、これまで私はがんの手術を2度経験しました。1度目は2009年8月にがんが見つかり、医師から胆嚢、胆管、十二指腸を全摘出しなければならない旨を伝えられ、10月にはその全摘出手術を受けました。
その5年後の2014年6月に、今度は膵臓の真ん中にがんが見つかり、膵臓と脾臓を全摘出しなければならない旨を伝えられます。その時、私は医師に「膵臓と脾臓を全部取っても生きていけるのか?」と聞いたところ、「生きている人はいるが元気になった人はいませんなぁ」と言われ、さすがに私も覚悟をしました。
そして現在、私の身体には胆嚢、胆管、十二指腸、膵臓、脾臓の5つの臓器がありませんが、ご覧の通り、元気で生きております。その元気の源は何かと言いますと、食事と適度な運動、そして「生涯、青春で生きたい」という意志ではないかと思っています。
これまで私は朝から晩まで仕事をし、食事も流し込むように10分程度で済ませていましたが、以後、毎食40分ほど時間を掛け、食後には1時間ほど休憩します。その間、昔読んだ本を読み返したりもしますが、今読むと以前とは違った新しい発見があるものです。さらに、医師からは1万歩歩くよう言われていますので、それならと1万2千歩歩くようにしています。
人生100年時代、世界の人口は増加傾向にあり、中でもアジアの人口が増加しています。そうなると、資源、エネルギー、食糧がなくなっていく中で生きていくには、各人の知的レベルの高さにかかっています。ひいては、子どもたちの教育にかかっているのです。
2度のがんを克服した今、私は未来の子どもたちのことを考え、大阪の子どもたちのために自己資金で図書館を建設し、大阪市に寄贈しようと計画しております。実際に大阪市長と面会し、議会への説得・協力を要請し、運営費等の資金調達や寄付も募り、書籍も集めています。書籍に関しては、ノーベル賞受賞者の方々が幼少期に読んだ本や、友人の小澤征爾さんや山中伸弥先生などからも寄贈していただいております。
格差社会における二極化は、貧富の格差よりも知的レベルの格差ではないかと私は思うのです。子どもの頃から本を読み、そして自分の頭で考え、意思のある人間を育て、世界に向けてインテリジェンスのあることを発信していくべきでしょう。その夢のために希望を持って100歳まで生きようと思います。
◆安藤忠雄氏 プロフィール
1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所設立。
代表作に「光の教会」「ピューリッツァー美術館」「地中美術館」など。
1979年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、1993年日本芸術院賞、1995年プリツカー賞、
2010年ジョン・F・ケネディーセンター芸術金賞、後藤新平賞、文化勲章、
2013年フランス芸術文化勲章(コマンドゥール)、
2015年イタリアの星勲章(グランデ・ウフィチャ―レ章)、
2016年イサム・ノグチ賞など受賞多数。1991年ニューヨーク近代美術館、1993年パリのポンピドー・センターにて個展開催。2017年新国立美術館で開催された「安藤忠雄展-挑戦-」は約30万人を動員、また同展を再構築し、2018年パリ ポンピドー・センターにて「安藤忠雄 挑戦」展を開催。
私は米国に渡って23年、アメリカ国立保健研究所(NIH)の国立がん研究所(NCI)でがんの新しい治療法「近赤外光線免疫療法(光免疫療法)」を研究してまいりました。がんの三大治療法「外科」「放射線」「抗がん剤」は私が医師になった34年前から変わっていません。従来の治療法では、正常な臓器も取ることになり、あるいは正常な細胞も傷つけてしまい、患者の身体への負担も大きく、さらには免疫力低下により再発の可能性も高まります。
そこで我々は、がん細胞を減らしながら同時に免疫細胞を強化して増やすというコンセプトのもと、光免疫療法を長年研究してきました。簡単に言うと「光(近赤外線)でがんを殺し、殺したがんで免疫を作る」「抗体を使って正常な細胞を壊さずにがんだけ殺す」ということです。抗がん剤もがんに効けば薬になるが、正常な細胞を壊せば毒になります。そこで抗体も抗体に乗せる化学物質(IR700)も無毒のものにし、細胞の膜にくっついて光が当たった時だけ、その細胞を破壊するスイッチとします。
光が当たると抗体の付着しているがん細胞の膜の上でのみピンポイントでこのスイッチがオンになる化学反応を起こし、膜が傷ついて細胞内に水の侵入を誘導し、がん細胞がお餅のように膨らんで膜が破裂します。この時、周りの免疫細胞を含む正常な細胞には影響しません。完全に破裂した死にゆくがん細胞の性格を免疫細胞の一つである樹状細胞にすべて晒すことによって認識し、成熟した樹状細胞がTリンパ球(T細胞)を教育することで、残ったがん細胞があってもTリンパ球が壊してくれます。
このサイクルを作ると、転移したがんを壊し、再発せず、「がんを治す」ことになります。インフルエンザワクチンが出来ているのと同じ状況(ワクチン化)と言えます。治療は「薬を打ち、1日後に1箇所5分間照射するだけ」です。光は体内では約2センチの距離しか届かないため、体の深いところであれば注射針を通して光ファイバーを刺すことで光を届けて作用させます。そしてこの治療を繰り返すことで確率が上がり、免疫ができ、ワクチン化します。
がんの転移・再発は我々医師にとって最大の課題でしたが、いずれはこの方法で8~9割の患者をカバーできると考えています。薬や放射線では細胞が生物学的に死にますが、生物学的に死んだ場合には免疫は出来ません。他方、光免疫療法では物理的にがん細胞だけ壊してしまうので、免疫細胞が認識できるのです。
薬は原価的にも安価でできるでしょうし、レーザーの機器も150万~200万ぐらいでしょう。現在、日本でも臨床試験が始まっておりますが、将来的には実用化されるとともに適用範囲が広がっていき、患者負担が軽減することも期待されます。そして何よりも多くの方にこのことを知っていただき、理解していただき、応援していただけることが我々の力となり、多くのがん患者を救うことに繋がるのではないかと思っております。
◆小林久隆氏 プロフィール
1961年、兵庫県西宮市出身。京都大学医学部を卒業し、1995年京都大学大学院を修了し、医学博士取得。同年、米国立保健研究所(NIH)臨床センター・フェローに。
1998年帰国、京都大学医学部助手を経て、2001年にNIHの国立がん研究所(NCI)に勤務。
2004年に主任研究員。2011年、自身の研究をまとめた新しいがん治療法「光免疫療法」の論文を発表。
翌年、オバマ大統領(当時)が一般教書演説で「偉大な研究成果」として紹介し、一躍脚光を浴びる。
同年、日本政府が選ぶ「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の表彰を受けた。