賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
受付時間 平日9:30~18:00
◆佐高信氏 氏 プロフィール
評論家 佐高信(さたか まこと)
1945年、山形県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。高校教師、経済誌編集者を経て、評論家に。『週刊金曜日』編集委員。近著に『「在日」を生きる ある詩人の闘争史』(集英社)など。主な著書に『自民党と創価学会』(集英社)、『偽りの保守・安倍晋三の正体』(岸井成格氏との共著)、『大メディアの報道では絶対にわからない どアホノミクスの正体』『大メディアだけが気付かない どアホノミクスよ、お前はもう死んでいる』(浜矩子氏との共著)、『メディアの怪人 徳間康快』(以上、講談社)などがある。
◆辻野晃一郎 氏 プロフィール
アレックス株式会社 代表取締役社長兼CEO 辻野晃一郎(つじの こういちろう)
1957年、福岡県生まれ。1984年に慶應義塾大学大学院工学研究科を修了し、ソニーに入社。1988年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、ホームビデオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社し、アレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長兼CEOを務める。近著に『「出る杭」は伸ばせ!なぜ日本からグーグルは生まれないのか?』(文藝春秋)など。
ソニーはかつて、輝ける異端だった。
挑戦しない者が出世し、「個」を犠牲にする日本企業から、創造性は生まれない。
原子力災害で露になった東京電力の実態、東芝の粉飾決算と巨額損失など、
「大企業病」のさまざまな症状が、いま日本に表出している。
ソニー、グーグル日本法人社長を経て独立起業した実業家と、
多くの企業トップに切り込んできた評論家が「株式会社・日本」の病巣に迫る!
講演内容
佐高氏:まず、経済誌の編集者だった私の経営者観を話したいと思います。北洋銀行の頭取・武井正直さんという方をご存知でしょうか。あのバブルの真っ最中に、バブルのようなバカな時代が続くはずがないとして、バブルの波に乗った融資を断固としてやらせなかった人です。当時メディアからは批判されましたが、結局、経営破綻した北海道拓殖銀行を受け入れ、北洋を最大規模に成長させました。経営は数字ではなく、その時代を見抜く哲学ということです。
辻野氏:私が経営者として影響を受けた人物は「人間尊重」を経営理念に掲げた出光興産の創業者・出光佐三。そして、創業当初から独特の世界観を持っていたソニー創業者の井深大と盛田昭夫です。また、日本興業銀行の中山素平など、戦後の平和主義、反戦を貫いた経済人には尊敬の念を抱いています。
佐高:政治と経済は別物と言う人もいますが、そんな事はありません。現に、経団連は安倍政権と一緒に商談を行っていますが、本当の商売ではない。その点、ソニーやホンダは、他の企業とは異質だと感じます。
辻野:ソニーは特殊な会社で、戦後できた製造業におけるベンチャー企業です。創業当初の非常に苦しい時、OEMの商談を断り、これほどまで大きく成長させたのには創業者の確固たる信念に基づく精神性・世界観があります。゙出る杭”の人たちが集まった集団でした。個人を尊重し、個性豊かな人たちのチャレンジングな昔のソニーは今のグーグルに似ています。今現在、民間の不祥事や官僚の不祥事など頻発していますが、根底にあるのは全体主義的で個人をないがしろにする日本の構造的問題だと思っています。
佐高:ソニーと対照的なのは松下電器産業、ホンダと対照的なのはトヨタでしょう。しかし、残念ながらソニーの松下化、ホンダのトヨタ化が始まっていて憂慮しています。また、東芝や日立で起こった不祥事も全く不思議ではありません。戦前から続く「修養団」が行うみそぎ研修(ふんどし1つで冷たい川に入らせる)を今でも行っていて、その研修講師は「馬鹿になって物事に挑むきっかけを掴ませる」と言っている。つまり、馬鹿を作る研修をやっているわけです。
辻野:日本人の体質として受け身型、依存体質が染み付いていると思います。上に非常に従順で、上に対し余計なことは言わない・しない。このような体質がいまだに根深く、様々な不祥事を起こしている一つの要因ではないかと思います。他方、ソニーやグーグルは対照的で、例えば、インターネットの普及も、末端にいる一人ひとりのアクションで、世界のインフラとして自己増殖的に広まったものです。つまり、今の時代は我々一人ひとりの叡智の集合体(wisdom of crowds)がその本質なのです。
佐高:国境なき記者団によると、今の日本の言論の自由度は世界で72位です。ほとんど独裁国家と同じです。そんなことはないと思うかもしれませんが、言論の自由とは、権力批判の先鋭的な自由が許されているかどうか、権力にとって一番怖い言論が保証されているかどうかということです。昨今、忖度と言われていますが、本田宗一郎が言うように、真実は権力より強いのです。戦争を望むような経済はありえない。経済は平和産業です。
辻野:魚は頭から腐ると言いますが、トップがおかしくなると末端までおかしくなり、日本だけでなく世界的にモラルハザードが萬延しています。
佐高:自民党には国権派と民権派の2つの流れがあり、国権派は岸信介、民権派は石橋湛山ですが、今、自民党では国権派が万能となり、民権派が消えつつあります。
辻野:日本国憲法には、主権在民、国民主権を謳っていますが、それはwisdom of crowds(叡智の集合体)の考え方を先取りした憲法だと思います。経済を発展させるのもビジネスをやっていく上でも、平和がすべての前提です。平和を保つのは大変ですが、まさに一人ひとりの叡智でしか成し遂げられないと思っています。
佐高:憲法について触れられたので、私も最後に1点だけ述べます。統合幕僚会議議長という自衛隊の制服組のトップだった栗栖弘臣が「自衛隊は国民の生命・財産を守るためにあると誤解している人が多い」と著書で述べています。満州では住民を置き去りにして一番最初に逃げ出したのが関東軍であり、沖縄では日本軍が住民を殺しました。軍隊は時の権力者を守るのであって、一般市民を守るものではないことは歴史を見れば明らかですが、いまだに我々一般市民を守ってくれると信じられています。このあたりの誤解も解いていかないといけません。