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賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局

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活動報告

活動レポート 大阪例会
2025年05月21日

写真:総合地球環境学研究所 所長 山極 壽一 氏

「からだの知」と「地球規模の知」の対をなす存在として、人間を深く理解するものとなるこのお二人にご登壇いただきました。

第一部は、医療法人貴島会ダイナミックスポーツ医学研究所 顧問・土井龍雄氏がご登壇。
50年以上にわたり、武豊騎手や太田雄貴選手をはじめ、数多くのアスリートやスポーツチームのコンディショニングを支援。
「歩く人。」プロジェクトをはじめ、健康寿命の延伸や職場の腰痛対策にも長年尽力され、科学的知見と豊富な現場経験を融合させた独自のトレーニング理論を展開し、“からだの知”を伝えるスポーツトレーナー界の先駆者として今なお第一線で活躍中です。
当日は、実際に身体を動かす参加型の講演となり、会場も大いに盛り上がりました。

第二部では、霊長類学・人類学の第一人者として、アフリカ・ルワンダでゴリラ研究を続けてこられた山極壽一氏がご登壇。
人間社会の起源と共生のあり方を探る学問を世界に発信。京都大学総長を務められ、現在は総合地球環境学研究所 所長として、環境と人類の未来に取り組まれています。

環境学・人類学・社会提言を横断する多角的な視点で、“地球の知”を伝える知性のひとり。
講演では、人類の進化や共感力の起源に触れつつ、現代文明のあり方を問い直す示唆に富んだお話が展開されました。著書『老いの思考法』にも通じる、成熟社会における価値観の再構築が語られ、参加者一人ひとりが、暮らしや社会との関わりを深く見つめ直すひとときとなりました。

講演内容

スペシャル講演①

ダイナミックスポーツ医学研究所 顧問
日本スポーツ協会公認アスレチックトレーナー 土井 龍雄 氏

40歳以上の運動器疾患のうち、変形性腰椎症は3,790万人、変形性膝関節症は2,530万人、骨粗鬆症は1,070万人、そのいずれか一つ以上の疾患をお持ちの方は4,700万人と、なんと全体の約6割の人が何らかの運動器疾患を抱えているという驚くべきデータがあります。腰の痛みや膝の痛み、それは一つに、骨と骨の間のクッションの役割を担う椎間板、半月板と骨軟骨が年齢とともに水分を失い、弾力性が低下し、変性したために起こると言われています。

私のスポーツトレーナーとしての足跡において、これまで多くの“出会い”が私を成長へと導いてくださいました。今から50年前、人生の大先輩でもある明治生まれの高齢者約500名の運動指導を担当させていただきました。運動の基本であるウォーキングを指導したところ膝痛や腰痛などの症状で欠席者が目立つようになりました。施設の顧問医でいらした市川宣恭先生(後に恩師となる)に相談したところ歩幅を広くして歩かせた私の指導法の間違いをご指摘いただきました。その理由は冒頭の加齢による関節変形だったのです。その後、先生にご指導いただいたことを実践し、年齢に適した負荷のかからない運動法により、痛みなく効果を発揮し、機能向上へと繋がったのです。明治生まれの方々が言っておられた「人は生きている限り体を鍛えなければならない」「最期まで自分の足で歩くんだ」という自律と自立の思考は多くの気付きと経験を与えてくださいました。そして、プログラム化できたのは、市川先生からの“教科書”を信じるな、“実践”して学びなさいという教えによるものでした。

また、多くのアスリートとの出会いもトレーナーとしての私を形作る大きな礎となりました。ラガーマンの大西一平氏(大工大高-明治大-神戸製鋼)を皮切りに武豊騎手やプロゴルファーの江連忠氏や日本初銀メダリスト・フェンシングの大田雄貴氏やプロ格闘家の桜庭和志氏など、怪我の治療からリハビリ、さらには強化するというアスレティックリハビリテーションを行なってまいりました。ここでも鍛えて治す方法が再発防止と競技力向上におおいに役立ちました。

今、超高齢社会への対策が喫緊の課題となっています。膝痛・腰痛から歩行障害となり、認知症・脳卒中あるいは衰弱が加わって要介護に至る。運動不足は言うまでもなく、過度な運動も良くありません。適度な運動が心身の機能を保持して介護予防を防ぐ必須条件です。中でも基礎体力づくり(筋トレ・バランストレ・ストレッチ)をベースに足腰に無理な負担をかけないセーフティウォーキング(適度な歩幅で歩隔をとり、滑らかに歩く)を実践継続することが健康寿命を延ばす具体策となります。

「大事因縁山よりも重し(一絲文守の漢詩)」最も大事な因縁、この世に生まれてきて最も大事な務めは山よりも重い。私はこれからも“生きていくためには、しっかり体が動かなければならないという普遍的な原理”を皆様にお伝えしていくという使命をもって少しでもお役に立てるよう頑張っていく所存です。

 

◆土井 龍雄 氏 プロフィール
1952年生まれ。大阪教育大学保健体育学科卒。医療法人貴島会ダイナミックスポーツ医学研究所顧問。神戸製鋼ラグビー部や競馬の武豊騎手、ゴルフの江連忠プロ、フェンシングの太田雄貴選手などのスポーツ選手から、104歳の高齢者まで約1万人のリハビリやトレーニング指導を担当。事業所や自治体での、腰痛や生活習慣病、介護予防などの対策プロジェクトに数多く参画してきた。健康運動指導士、日本体育協会公認アスレチックトレーナー、JOC強化スタッフ

スペシャル講演②

総合地球環境学研究所 所長 山極 壽一 氏

今、我々が考えなければならないことは、近代科学、資本主義、新自由主義による世界のグローバル化は確かに個人の欲望を無限に拡大してきたが、このままいくと、人間も地球も滅んでしまう。人類の進化と文明史を振り返り、どこで間違えたのかを考えなければならない。これが環境問題の本質です。

人類の進化の歴史を紐解くと、3つの大きなエポックがあったことが分かる。一つは、700万年前に直立二足歩行をし始めたということ。これにより、両手で食料を運ぶことができ、安全な場所で食事を行うことができるようになった。これが人類の「食事」の文化の始まり。次に、200万年前に人類の脳容量が増えた。ロビン・ダンバーという霊長類学者が霊長類の脳の大きさと集団の規模を調べると比例関係にあるということを発見した。仲間が増え、仲間同士の関係性や社会性を保つ「共感力」の高まりによって脳が大きくなっていった。人間が言葉を使い始めたのは7万年から10万年前なので、言葉によって脳が大きくなったというわけではない。脳が大きくなったことで言葉を使い始めたとみるほうが正しい。そして、農耕や牧畜による食料生産によって集団規模を拡大していった。脳容量はそれに比例するように、10~15人の集団から30人・50人と増加、150人規模になると現代人とほぼ同じ1400ccの脳容量を持っていた。この10~15人の「共鳴集団」とは家族や親族に当てはまる。それが10や15個の地域集団を形成する。言葉が生まれる以前、その地域コミュニティは音楽的な流れによって繋がっていった。だから、人間の本質とは言葉の前に音楽的コミュニケーションで結びついた身体の共鳴による「共感力」がついたことである。

人新世(Anthropocene:アントロポセン)に至った考え方は6つ。人類は地球の支配者である、進化の勝者であるという考え方。これは間違っていた。そして、言葉を獲得することにより、人間の知性が向上したという考え方。しかし、この知性は本当に我々に平和や幸福を齎したのか。それも違うらしい。1万2000年前の食料生産によって人口が拡大し、人類的な生活が始まったという考え方。また、産業革命によって新たなエネルギー資源を獲得し、現在のような政治・経済システムを確立したという考え方。その無限に成長する経済システムに依存するという考え方。そして、今、我々が直面している情報革命によって進むグローバル化という考え方。これらは果たして正しいのだろうか。

プラネタリー・バウンダリーという地球環境の持続可能性を確保するための様々な指標が示していることは、地球環境はもはや限界を迎えているということ。現在、17の目標と169のターゲットを目指し、世界中の国々がSDGsに取り組んでいるが、SDGsに欠けているもの。それは「文化」です。「文化」は人間が持っている価値観。私どもの総合地球環境学研究所の初代所長は「地球環境問題の根源は人間の文化の問題である」と仰った。同研究所が創立された同じ年、ユネスコ総会にて「文化的多様性に関する世界宣言」が採択された。そこには「文化的多様性は、交流、革新、創造の源として、人類に必要なものである」と書かれている。また、7条には「創造は、文化的伝統の上に成し遂げられるものであるが、同時に他の複数の文化との接触により、開花するものである」とある。「文化」は多様で個性的でなければならない。しかし、それが接触しなければ創造は生まれない。つまり「交流」が必要だということ。文化的多様性は自然的多様性の上に乗っているものなので、政治権力や組織によって広がっていく「文明」とは違って、「文化」は地域に根ざすものである。限界集落の問題、地方の過疎化の問題が指摘されている今こそ、「文化」の再構築のチャンスである。

Q&A

Q:物が人と人を繋ぐとは?

A:私が実践していることで言うと、瀬戸内海の漁師さんに毎月5,000円を投資し、その時揚がってきた海産物の中から私に食べさせたいものを送ってくれる。これはお互いが物を媒介にして繋がるということ。大きなサプライチェーンでは規格外の物は流通しない。一次産業の衰退の一因ではないか。直接的な生産と消費を繋ぐことで、物を作る精神によって物を媒介にして人と人が繋がるという社会を作る方向に進むべきだろう。

Q:古代より戦争が耐えない人間社会。国と国はどう付き合うべきか?

A:政治が表に立ちすぎているように思う。大阪関西万博のように、様々な国の人たちが政治とは違う形で交流している。学問や文化も同じで、そのような交流を高めていくことによって、国の壁を低くしていくことが一つの方法ではないか。トランプ政権は経済を政治主導で動かそうとしているが、おそらくそれは続かない。経済は技術と新しい発想が必要で、政治で規制コントロールはできないだろう。

Q:地域コミュニティの中で運動習慣化させる手立てはないか?

A:人間にとって一番古い原初的な文化は「食事」。現在、親子食堂やこども食堂が9,000以上あり、増加傾向にある。食事は効率とは無関係な共同作業なので、そこに共感力が芽生えるきっかけになるのではないか。また、「音楽」も有効だと思う。言葉は忘れても音楽を覚えていることが多い。ラジオ体操などは人々の共同意識を高めた好例。ならば、「食事」と「音楽(的コミュニケーション)」をうまく活かすことではないか。

◆山極 壽一 氏 プロフィール
1952年東京都生まれ。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学。理学博士。ルワンダ共和国カリソケ研究センター客員研究員、日本モンキーセンター研究員、京都大学霊長類研究所助手、京都大学大学院理学研究科助教授、同教授、同研究科長・理学部長を経て、2020年まで第26代京都大学総長。人類進化論専攻。屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地で野生ゴリラの社会生態学的研究に従事。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、日本学術会議会長、総合科学技術・イノベーション会議議員を歴任。
現在、総合地球環境学研究所 所長、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)シニアアドバイザーを務める。南方熊楠賞、アカデミア賞受賞。著書に『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』(2020年、家の光協会)、『スマホを捨てたい子どもたち-野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』(2020年、ポプラ新書)、『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(2021年、朝日新書)、『猿声人語』(2022年、青土社)、『動物たちは何をしゃべっているのか?』(2023年共著、集英社)、『共感革命-社交する人類の進化と未来』(2023年、河出新書)、『森の声、ゴリラの目-人類の本質を未来につなぐ』(2024年、小学館新書)、『ゴリラとオオカミ・ヤギとゾウのお話』(2024年共著、今人舎)、『争いばかりの人間たちへ ゴリラの国から』(2024年、毎日新聞出版)、『老いの思考法』(2025年、文藝春秋)など多数。

開催日時
5月21日(水)15時00分~17時30分
タイムテーブル
15:00       開会
15:00~16:00  スペシャル講演①(ダイナミックスポーツ医学研究所 顧問 土井 龍雄 氏)
16:00~16:10  休憩
16:10~17:30  スペシャル講演②(総合地球環境学研究所 所長 山極 壽一 氏)
17:30       閉会
場所
ザ・リッツカールトン大阪 2階 ザ・ガーデンルーム
〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田2丁目5−25Google Map
TEL:06-6343-7000(代表)
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