賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
受付時間 平日9:30~18:00
今回の大阪例会では、“ヒゲの隊長”こと前参議院議員の佐藤正久氏と留学生向け情報サイトの運営から企業と外国人材のマッチングまで手掛ける森興産株式会社 代表取締役 森隼人氏にご登壇いただきました。
第一部の佐藤正久氏は、ロシアによるウクライナ侵攻、中国の軍拡、北朝鮮の核開発など、国際情勢の不安定化と、サイバーテロなどの新たな脅威に対する日本の安全保障上の喫緊の課題を提起。これまでの専守防衛的思考の限界を指摘し、日米同盟の維持にはリスク共有の覚悟が必要であると強調しました。また、エネルギー自給率の低さや光海底ケーブルなどのインフラ保護といった経済安全保障の重要性にも触れ、国民の外交防衛問題に対する認識の向上が求められていると訴えました。
第二部の森隼人氏は、少子高齢化が進む日本における外国人労働者の増加傾向を踏まえ、日本が労働市場・生活拠点として選ばれ続けるための取り組みを解説。在留資格に基づく「ジョブ型雇用」の推奨、仕事だけでなく生活全般にわたる相談支援による定着率の向上、そして賃貸・金融サービスなどにおける障壁の解消に向けた「地域のグローバル人事部®️」の取り組みを紹介。外国人に対する信用スコアリングビジネスモデル特許についても触れ、適法で適正な共生社会の実現には、国民自身が多様性を受け入れ、相互の信頼価値を高める努力が必要であると結びました。
両講演を通じて、日本が直面する安全保障と少子化に伴う労働力の課題に対し、現実的かつ国民全体を巻き込んだ対応が急務であることが示唆されました。
講演内容
トークテーマ:「我が国の安全保障環境について」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や中国の軍拡、北朝鮮の核開発、ハマスによるイスラエル人虐殺など、昨今、国際情勢の不安定化が極まり、物理的な攻撃に留まらないサイバーテロやディスインフォメーションなど、ドローンやAIやサイバーなどの軍事技術の進化による新たな脅威や環境変化に対し、我が国の外交防衛問題への早急かつ現実的な対応は重要な喫緊の課題となっています。
我が国の安全保障においても、これまでのような専守防衛的思考では通用しなくなっています。日本は、ロシア・北朝鮮・中国からの3正面防衛という地政学的安全保障の捉え方があります。これらの国々のトップはいずれも権力に固執し、独裁的な政治体制を敷いており、いつその牙を日本に向けてくるかわかりません。
ロシアはウクライナ侵攻において、北朝鮮から武器弾薬や労働力の提供を受け、代わりに北朝鮮に対し、宇宙科学技術の支援を行い、北朝鮮はその技術を用い、核ミサイル開発を進めました。その北朝鮮が今年初め、新型ミサイルの発射実験を行い、1,500キロ飛行後、目標水域に着弾したと発表しています。また、中国は昨年、ナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問した後、「聯合利剣-2024A」と称する台湾を囲んだ海空の軍事演習を行いました。また、中国籍船の尖閣諸島周辺海域における領海侵入件数は年を追うごとに増加傾向にあり、昨年8月には初めて中国軍機による長崎県男女群島沖への領空侵犯も確認されました。
さらには、日本の経済安全保障の面からみても、日本のエネルギー自給率は16.8%と低く、天然ガスや化石燃料あるいは石炭や原油における海外依存度は9割を超え、資源インフラの海上輸送路における安全確保は死活問題となります。あるいは、インターネットなどの通信インフラを支える光海底ケーブルは我が国にとって重要な生命線です。これら重要なインフラに対する脅威を取り除くためにも、しっかり対応していかなければなりません。
日米同盟においては、最近のトランプ大統領の発言からも、もはや在日米軍への基地提供や経済負担だけでは堅牢な同盟関係を維持できないところまで来ています。リスクを共有する覚悟が問われているのです。もちろん、日本は欧米と戦闘機やフリゲート艦など軍事技術の共同開発を足がかりとして、官民両輪での積極的な参画を行っています。ただ、残念なことに国民の外交防衛問題に対する認識がいまだに追いついていない現状において、我が国の自衛隊員たちの苦しい立場に忸怩たる思いを拭えません。今日のウクライナを明日の台湾や日本にしてはなりません。家族を愛せない者、会社を愛せない者は地域を愛せない。地域を愛せない者は国を愛せない。逆に、国を愛せない者は地域を愛せず、地域を愛せない者は家族や会社を愛せない。国家あっての地域、地域あっての家族や会社です。逆に、家族や会社あっての地域であり、地域あっての国家。今ほど、国民自身が国を守る意義を問われている時代はないと思います。
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Q&A
Q:佐藤氏が危惧される日本の外交防衛の状況を少しでもより良い方向にしていくために、我々はどのような投票行動をすればよいか?
A:外交防衛の話は票にならないので、政治家は触れたがらない。元々選挙に強い政治家しか外交防衛について話さない。国民の関心も雇用・医療・年金・介護・子育てが中心で、外交防衛は二の次。しかし、票にならなくても政治家が正直に国民に話すべき。国民の防衛意識を超える防衛力は作れないと思っている。
Q:中国脅威から核武装論をよく耳にするが、その点について?
A:核武装は国民の同意が必要。ただ非核3原則の呪縛に囚われている。実際には非核5原則だと思う。核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず、考えもせず、議論もせず。考え、議論した結果の3原則ではないのではないか。自分が持たなくても、本来は持つことが一番抑止になるが、持ち込ませることで抑止になる場合がある。もしアメリカが北朝鮮の限定的核保有を認めると、韓国と日本はどうなるのか。今後の米朝会談を注視しなければならない。日本はNPT不拡散条約を結んでいるが、保有する場合は脱退しないといけない。が、失うものも大きいので相当な覚悟が必要。その覚悟があるのか。その一歩として、原子力潜水艦を保有するべきという意見は重要。
◆佐藤 正久 氏 プロフィール
“ヒゲの隊長”こと、前参議院議員 佐藤 正久(さとう・まさひさ)。福島県出身。防衛大学校卒業後、約25年間、陸上自衛官として勤務。国連PKO ゴラン高原派遣輸送隊初代隊長、イラク先遣隊長・復興業務支援隊初代隊長、第7普通科連隊長兼ねて福知山駐屯地司令などを務めた。平成19年、参議院議員に初当選、現在3期目。外務副大臣、防衛大臣政務官のほか、参議院外交防衛委員長や自由民主党国防部会長・外交部会長などを務めた。
トークテーマ:「選ぶのか、選ばれるのか。外国人雇用・共生の着眼点」
日本に居住する外国人の割合は約3%、地域によっては10%を超えると言われています。また、今年インバウンドの人数は4,000万人を超え、今や街で外国人を見ない日はないと言っても過言ではないでしょう。一方で、オーバーツーリズムの問題や近隣住民とのトラブルや外国人犯罪などがメディアで報道されたり、先の選挙においても争点の一つとして取り上げられ、世界的な移民問題も相まって、国民の関心も高まりつつあります。
日本人の昨年の出生数は初めて70万人の大台を割り、68万6061人(在留外国人を除く)となっており、少子高齢化、人口減少が加速する一方、外国人労働者は2014年には78万人だったのに対し、2024年には230万人を超えるなど増加傾向にあり、この傾向は今後も継続すると予測されています。このことを前提に、労働市場・生活拠点としての日本が今後も選ばれ続けていくためにどのような取り組みが必要でしょうか。
かつて日本人気は中国や韓国・台湾が中心でしたが、最近の傾向は、インドネシア、ミャンマーなどの東南アジア、そして、ネパール、スリランカといった南アジアに移っています。日本人気の高かったベトナムも最近では若い人を中心に音楽や動画等で韓国人気が高まり、また、コロナによる渡航制限や円安、物価高の影響もあって日本人気はやや下火となっています。外国人が日本を選択するか否かにおいては、国ごとの傾向(国内の政治や経済の状況、流行も含む)があることを十分に理解しておく必要があります。
外国人採用時に難解とされる日本の在留資格ですが、外国人は日本においてできること・できないことが在留資格上明確となっていることを前提に、採用後、具体的にどのような仕事をしてもらうか、という職務内容を明確にしておく「ジョブ型雇用」ですすめることがミスマッチを避ける秘訣です。そのうえで、採用後も放置することなく、仕事だけでなく生活上の相談支援(家庭や在留資格の相談を含む)など不安や悩み事を解消すると定着率が一気に高まります。キャリア構築においても、在留資格更新時期や、母国の両親の年齢・体調など、その人・家族の人生に寄り添うメンタリングの仕組みは重要です。
暫住から定住へ、定住から永住に向けては、賃貸物件が借りづらい、クレジットカードが作りづらい、銀行口座が作りづらいなど、外国人が日本人と比較して様々な国内のサービスを受けにくい現状にあります。地域・ルールに馴染めず、情報が得づらいために孤立し、結果として外国人への信用が高まっていかないという悪循環に陥らないようにするために、産官学金連携の「地域のグローバル人事部®️」という仕組みをつくり、地域一体での外国人の信頼価値の向上に向けた取り組みを行っています。
これに関連し、外国人に対する信用をスコアリングするビジネスモデル特許を取得しました。これは、外国人の定性的要素や資格、学歴、職歴、ボランティア活動等あらゆる社会活動をスコア化し、そのデータを管理・活用することで外国人の信頼価値を高めていくプログラムで、今後、留学・進学・就職・昇給・昇格・転職など日本に住む・学び・働くための多くの機会に幅広く活用できるよう展開していきます。
最後に、日本がこれからも選び・選ばれ続けるためには、不法就労や不法滞在を許さず、適法で適正な共生社会を外国人と共に作っていくということ。そのためには画一化から脱却し、少しの多様性を受け入れることから始めること。その中で、お互いの信頼価値を高める努力を続けていくことが必要なのではないでしょうか。
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Q&A
Q:米国トランプの反移民政策に賛同。現にスウェーデンでは移民のギャング化が問題になっている。経済界と日本政府が安い労働力のために単純労働者を入れる方向で推進している。非常に危ないのではないか?
A:日本においても埼玉県川口市のクルド人問題などが取り上げられるが、現状はごく一部だと思う。政府としては高度人材をターゲットにしてくる中、単純労働者の受け入れ増加は産業界からの要請であった。都合良く高度人材だけ受け入れるというのは他国の状況をみても厳しいため、課題への対応としては、違反者にはこの国から退去してもらうということを徹底する。その際には失踪者・不法滞在者を生み出さない仕組みも必要。
Q:欧州を見て思うのは、植民地支配の歴史の違いがある。日本人特有の信仰心(宗教とは違う)と他宗教(特に一神教)の人たちとの意思疎通問題がトラブルに発展するのでは?
A:考え方・感覚の違いはある。外国人を雇用せず国内の経済が成立するのであれば問題ない。しかし、現実には人口減少の中、外国人を雇わなければ成り立たない方向で日本経済は進んでいる。効率化のための設備投資余力も企業には少ない。外国人が増える中では、入国時や更新時の在留資格基準の厳格化などが必要だと思う。
Q:森氏のここ数年の海外での活動・活躍はとても素晴らしい。海外でのNPO的活動以外の部分、企業経営者としての側面を教えてほしい。
A:人材事業ではスケールしないと言われている。そこで人材の信用価値を数値化し、システム化したサービスを国内で標準化させていきたい。信用マーケットは学校機関対象にしただけでも1兆円規模に上るのでビジネスチャンスがある。今後の課題としては、例えば、ある外国人の日本在留期間が10年あった場合、その方は母国から見ると空白の10年となる。その空白をどのように埋めてあげられるか。その空白中(日本在留期間中)に得た価値(スコア)を母国に持って帰ることができれば、その方の帰国後の人生に少しでもプラスに作用すると考えている。このシステム活用・展開によって事業拡大していきたい。

◆森 隼人 氏 プロフィール
森興産株式会社 代表取締役、行政書士(2006年〜)。外国人法務・活躍支援の専門家。関西経済連合会 アジアビジネス創出プラットフォーム 人材育成部会 事務局長、大阪産業局 大阪外国人採用支援センター 専門家相談員、大阪観光局 留学生支援コンソーシアム大阪 委員、非常勤講師(大学・専門学校・日本語学校)をはじめ多くの役職を歴任。外国人向け情報メディア「WA.SA.Bi.(わさび)」には136ヶ国籍の在留外国人が登録。延べ20,000人を超える外国人のキャリア支援、産官学金連携での外国人支援イベントを各地で開催。 2020年地域未来牽引企業選定(経済産業省)。