賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
受付時間 平日9:30~18:00
国際ジャーナリスト・明治大学国際日本学部教授・蟹瀬誠一氏にメンバースピーチ
「激動する世界経済を読み解く羅針盤」というテーマで、「相対的貧困率16.1%が日本の現実、政治を変えて貧困化社会を食い止める」というお話をしていただきました。
ゲストスピーチでは、公益財団法人大阪観光局理事長・溝畑宏氏に「関西・大阪を元気に」というテーマで、「破天荒なアイデアで人を動かす、みんなが一つになるプロジェクト」についてお話しいただきました。
基調講演テーマ
相対的貧困率16.1%が日本の現実政治を変えて貧困化社会を食い止める
現在の日本、世界の経済で最大の問題は貧困です。厚生労働省の発表によると、日本の相対的貧困率は2012年の時点で16.1%と、過去最高を更新しています。約2,000万人、つまり国民の6人に1人が貧困状態にあるのです。今後、高齢者が増えると、さらにこの状況が悪くなり、近い将来には3,000万人を超えるとも言われています。
世界の貧困率に目を向けると、1日に1.9ドル以下、日本円にして約200円以下で暮らしている最貧な層は12.7%(8億9,600万人)というのが2012年の統計です。つまり、パーセンテージでは日本のほうが悪いのです。貧困の問題は見逃しがちですが、経済にとって大きな要素です。
貧困は経済的な理由だと思っている方がほとんどですが、経済的な格差は政治的な不平等を生みます。お金持ちは政治に影響力を与え、政治的な不平等こそ貧困の原因なのです。貧困をなくすためには、経済ではなく、政治を変えなくてはいけません。
政治家は法律を作る以前に2つ仕事があります。1つは、国民に夢を与えること。そして、2つめはその夢を実現することです。しかし、近視眼的な政治は、財政再建より経済成長を優先します。企業経営者は政治よりもう少し長期的なところを見ていて、いつか経済の財政が破綻をして、国民生活、企業経営に災難が降りかかるだろうと、恐れている人がほとんどです。貧困は政治の結果ですが、貧困になっていく社会を食い止めなくてはなりません。
強い信念を持って立ち向かえばありえない決断が経済を変える
企業経営者はイノベーションと言う言葉を好んで使います。本来、イノベーションは変化と同様の意味で、言葉自体にはプラスの意味合いはありません。よいイノベーションもあれば、悪いイノベーションもあります。よいイノベーションを目指す経営者ならば、あり得ない決断をぜひ実行してください。労働者は怠け者だから給料は安くというのが常識だった当時、フォード自動車創業者のヘンリーフォード氏は、自分の工場で働く従業員の給料を倍増しました。そして、自動車の値段を半額に下げました。普通なら会社はつぶれます。ところがフォードの売上はその後、短い期間の間に2倍になっているのです。フォード氏には、従業員にきちんと対応すれば一生懸命に働くという信念がありました。すると生産性が上がり、会社の収益も上がるという考え方です。もうひとつ、従業員は会社では従業員ですが、一歩会社を出たら消費者です。この消費者の財布にお金が入っていなければ、我が社のクルマは売れない。そう信じていたのです。バカだと言われてもそれを実行したのです。すると会社の収益が上がり、働き方も変わっていきました。フォード氏がやったことは1社にとどまらず、消費革命を引き起こして、今の豊かなアメリカができあがったのです。一人の経営者がアメリカという国の経済を変えたのです。
ありえない決断とは、まわりの皆が反対しているときにも、経営者としてやるべきだと考えたならば、強い信念を持って立ち向かうことです。考えたことは、外れる場合もあるでしょうが、このような難しい時代には、やり抜いていくことが経営者にとって大切なことだと思います。
なにごとも変えればよい、変化すればよいと言うわけではありません。先日亡くなられた小林陽太郎氏は、価値創造フォーラムで活躍されました。そこで絶対価値について書かれている文章があります。「価値とは真・善・美など誰もがよいとして、承認すべき普遍的な意味である。個々の企業がそもそも何のために存在するのか、何を実現しようとしているのかという、根源的な問題が問われている」。
この言葉は変化の激しい今の時代に、変わってはいけないことの重要性を説いた言葉ではないかと思います。 (談)
破天荒なアイデアで人を動かす・みんなが一つになるプロジェクト
観光の原点とは何でしょうか。住んでいる人が楽しくないのにおもてなしはできません。まず、自分がその場所を好きになり、ハッピーになることです。自分自身が楽しく、幸せでなければお客様を呼ぶことはできません。そのためには努力が必要です。まず、自分が住んでいるという状態をポジティブに受け止め、自分の住んでいるところに誇りを持ち、愛することです。これができないと、おもてなしが見せかけになってしまいます。
観光施設だけでは観光都市とは言えません。魅力ある地域、文化、歴史が脈々と育っていることが大切です。うわべだけのプラットフォームを作っても計画づくりだけで終わってしまいます。ベースをしっかり作った上で、これを実行する人や、リスクをとる人が必要です。
人、モノ、金が地域に集まることで経済がうるおい、雇用が生まれて地域経済が活性化します。このためには、みんながひとつになるプロジェクトを示すことです。チマチマしたことでは、みんなの心が躍りません。最初は「え、大丈夫か」と思うような、奇想天外で破天荒なことが大事なのです。誰でもできることでは人の心をつかむことも、動かすこともできないのです。破天荒なことを言うと反応は2つに割れます。ここから先が大事なのです。言ったあと、相手を味方につけ巻き込むのです。みんなに「あいつ、ええやつだ」「ついていったら面白いな」と思わせないと先には進まないのです。
そこに必要なのはコミュニケーション能力です。これは謙虚さや面白さなど、人を引きつける力です。常に、誰がなんと言おうとぶれずに、人を元気づけ、勇気づけ、細かいことは言わない、でんと構える、何があっても最後までやり通すという胆力です。この芯があれば、時間をかけることで成就します。聞き心地のよい人とばかり集まってやっていると、人は動かないというのは世の中の鉄則です。みんなが主役にならないといけません。
世界トップに行くというマインドですべての業界で大阪の復権を目指す
かつて、関西は「自分たちが世の中を動かす」という志を持っていました。申し訳ないのですが、今は東京のマネをして、ただの大きい地方都市になってきました。かつてのチャレンジ精神は、東京に負けないと言うよりも世界のトップに行くというマインドです。文化、芸能、和食の都は大阪です。これを取り戻しましょう。
ものづくりの復権、サービス産業の生産性を高めることも大切です。産業の発展には、付加価値を上げ、ターゲットを富裕層に掲げることです。また、24時間都市を目指すことです。世界は今、24時間動いているのです。朝9時から夜6時だけというのは日本の旧来型のビジネスです。本気になって国際競争力と競合するのなら、20年後、30年後を目指して、多少の不平不満があっても一致団結することが大阪には必要です。24時間に消費の軸を延ばし、消費のカテゴリーを増やし、セグメントをしっかりして、大衆消費から少し富裕層まで上げることで、1人あたりのお金を落とす金額が増えていくのです。こうしたマクロの戦略が大阪には抜けています。小さな戦略ではなく、もっと大きなうねりが必要です。
そのためには他人事ではなく、みんなが心ひとつに誇りを持って、大学や金融機関、すべての業界が連携をとることです。観光にはすべての産業が絡みます。みんなで知恵を出し合って共通の目的を持って資源を掘り起こすことです。さらには、付加価値を加えることです。付加価値とは、モノもサービスも、幸せで、わくわくし、感動するという感覚です。この感性や遊び心が大事です。
このままではダメだという危機感を持ち、思い切った決断が必要です。突き抜けるためには少々の弊害があってもみんなが参加して飛び越えましょう。みんなが協力できる方針があれば、きっと関西は復権できます。 (談)