賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
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メンバーズスピーチは、株式会社日本総険 専務取締役 葛石 晋三 氏にご登壇頂きました。大戦後、日本は復興を目指す共助扶助の仕組みとして、広く普及を目指し構築された「保険流通戦略」は大きな成果を収めました。さらなる拡大販売を企図して保険会社は保険商品を複雑に進化させ、2005年保険金不払い未払い事件が発生、ここで保険会社は消費者とついに向き合います。しかし残念なことに、兼業が多い販売代理店網を守るため、保険会社は「複雑な商品は整理廃止、シンプルな保険で、簡単な売り方」を模索します。一方、米国西海岸やロンドンなどを中心に、豊かな金融イメージと、優れたアイデアによって、インシュアテック(保険+情報技術)企業が次々と誕生しています。今日の我が国のあるべき保険概念の変革を保険仲立人である葛石様にお話頂きました。
スペシャル講演は、ネスレ日本 代表取締役社長兼CEOをこの3月に退任され、現在はケイアンドカンパニー株式会社 代表取締役社長の高岡 浩三 氏にご登壇頂きました。21世紀はインターネットやAIによる第3次、第4次産業革命により新たに手にしたエネルギーを駆使して、これまで解決出来なかった問題解決を果たす時代。それこそが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の本質であります。日本の失われた30年は、まさにこのDXによるイノベーションが出来なかったことによるものです。本講演では、イノベーションの定義を明らかにしながら、日本の経営者が理解していない、DXによるイノベーションについて実務的解説をして頂きました。
講演内容
戦後、昭和20年代から祖父が保険業を営み、父が継承。1996年の保険業法改訂によって保険仲立人制度が始まると同時に、父は株式会社日本総研を起業しました。私も社員として入社し、現在に至るまで、祖父の時代から50年以上保険業界に携わる葛石家の三代目として保険仲立人をさせていただいております。
保険仲立人とは、税理士や弁護士や社保士などの消費者側代理人と言われる職業と同じように、お客様と保険会社の情報格差を埋める存在として、契約者の側に立ち、契約者にとって最適な保険をコンサルティングする存在として26年前に制度化されたものです。端的に言うと、保険仲立人の役割とはリスクコンサルティングであると考えます。
一般的にイメージする保険は「複雑でよく分からない」けれども安心安全のために「なんとなく加入」するものだと思っていませんか。しかも大手保険会社が推奨するパッケージ型保険を契約される方が多いようです。そこで私が提唱したいのは、その保険の概念を変えていただきたいということです。実は、「使える損害保険」として捉え直すと、皆様の会社の経費圧縮や収益増に繋がる「運用金融商品」として非常に有用なのです。
2005年保険金不払い未払い問題が起こって以降これまで、国内では、保険商品はシンプルで簡単な売り方志向へ模索する中で整理廃止し、業界は徐々にシュリンクしていきましたが、他方、海外ではテクノロジーと保険が掛け合わさったインシュアテック企業の誕生などによってダイナミックに発展し多様化してきました。
本来であれば、企業其々にリスク内容が違うはずで、同業他社を比較分析するだけでもその違いは一目瞭然ですが、情報格差による知識や損保業界の規模縮小などによってもたらされた保険に対する固定概念がある意味弊害となって、企業の財務状況を圧迫するマイナス面ばかりに着目されがちでした。
しかしながら、昨今のインシュアテックの台頭や保険商品の多様化など、個々の業態に合った保険商品を提案できる環境が広がりつつあり、私ども保険仲立人の役割はますます重要であると認識しております。従来のようなパッケージ保険に企業側が合わせるのではなく、企業個々のリスクを徹底的に把握し、その業態に最適な保険設計を構築できるリスクマネジメントが時代の趨勢であり、ぜひ、我々のような保険仲立人の役割を多くの方に認知していただき、より最適な企業経営の一助となれるよう、さらなる貢献を果たしていきたいと考えております。
◆葛石晋三氏 プロフィール
1977年香川県生まれ。駒澤大学法学部卒業、2003年日本総険に入社後現在。
大学生時代「生損相互乗り入れ規制」が解禁された。務めたバイト先がたまたま損害保険会社、生保系損害保険会社双方のコールセンターで勤務した。代理店を辞めて50歳で創業した父親の保険仲立人にかける熱い夢と、極端に安い労働力への渇望に応え、帰郷した。
鬼籍の祖父も保険代理店の創業者であり、名字の難解さも相まって、四国では少なからず名の知られた「保険一族」の3代目にあたる。
「なぜ、我々はより一層変革しなければならないのか?」という問いに向き合う時、我々の歴史を振り返る必要があります。戦後復興期の日本経済は、日本株式会社モデル(新興国市場成長モデル)というもので、日本の企業はメインバンク・システムによって支えられてきました。言うならば、低い労働コストと高い労働力の質が成長のエンジンの一つとなり、年平均100万人の人口増をもたらしました。
1990年バブル最盛期では、世界の時価総額のトップ20社に日本企業が占める割合は70%でした。ところが、2020年になると日本の企業はゼロです。トップ20どころかトップ50にも日本の企業は見当たりません。ほとんどがアメリカか中国で、韓国すらサムソンがトップ20に入っている現状です。さらに今年は、人口が50万人減となり、11年連続の減少となっています。日本はまさに新興国市場成長モデルからの脱却とイノベーションの機会を失ったのです。
今我々に求められていることは「新しい21世紀型マーケティングとイノベーション」へのパラダイムシフトであると考えます。持続的に売上と利益を向上させる「先進国型の利益ある成長モデル」へのシフトチェンジが喫緊の課題ではないでしょうか。
では、マーケティングとは?私が考えるマーケティングとは、顧客の問題(欲求)を解決することで付加価値を創るプロセスと行動であると考えます。顧客の問題(欲求)はマズローの欲求法則(三角形の断層図)のように、下段にある生理的欲求や安全の欲求を物質的ニーズとし、中段に社会的欲求があり、上段の承認欲求や自己実現欲求は感情的ニーズとし、民度とともに上段へと変化します。
例えば、部屋が暑いという問題を解決する最初の発明は扇子や団扇というイノベーションでした。そこから電気というエネルギーを利用した扇風機に進化を遂げます。戦後復興から経済成長の過渡期、家庭に扇風機一台の時代。そこで、家族みんなに風が行き届くよう、あるいは風の強弱がつけるなど、単調な扇風機に様々な機能を付加することで各家庭の事情に合わせたニーズに応えるべく既存の扇風機がさらに進化します。これがリノベーションです。その後、風ではなく空間そのものを快適な温度にするエアコンの発明によって、主力は扇風機からエアコンに取って代わっていきます。これがイノベーションです。そのエアコンに対し、除湿機能や空気清浄機能をつけ、さらに快適な空間を演出するための問題解決がリノベーションと言われるものです。
このように、20世紀では製品そのもの中心のイノベーションが行われてきましたが、21世紀型のイノベーションは、UberやAmazonなど、ビジネスモデル中心のイノベーションによって、顧客の問題を解決するなど、時代とともに変化を伴います。
<20世紀から21世紀のイノベーション例>
・Amazonの問題解決:国土が広く近隣店舗が少ないアメリカや中国ではeコマースが中心。重くてかさばる商品の搬送。品揃えが難しい音楽や書籍など。ストック切れを起こさないよう、サブスクリプションサービス(定期購入)の導入。
・メルカリの問題解決:流行に左右されやすい婦人服や子供の成長著しいベビー服の売却。書籍も購入後1回読んで売却。使用頻度の低い高級一眼レフカメラなども使用後売却。
ただ、問題の発見に決まった方式はありません。常に新しい現実を見続け、顧客の問題を発見していくのです。幸か不幸か、コロナ禍における新しい現実からくる顧客の問題が可視化されました。これからの20世紀プレイヤーは、例外なくeプレイヤーとの競合は避けられません。ありとあらゆる産業がデジタルトランスフォーメーション(DX)との対峙が求められています。
私は、新しいデジタルやAIというエネルギーを使い、問題解決をしていくサイクル(NRPSサイクル:New Reality Problem Solutionの頭文字)によってイノベーションを行っていくことを提唱しています。デジタルトランスフォーメーションはあくまでも21世紀に新しい顧客の問題を解決する手段だと捉えています。その問題解決は容易ではありませんが、NRPSを社員一丸となって考え、新しい現実を見ていくことに尽きるのではないでしょうか。
Q:日本のイノベーション力の低下の要因は、歴史的な背景の他に、教育の問題があるのではないか?
A:高岡:根源的問題として、教育の問題はかなり大きい。ただ、日本はイノベーション力が弱っているわけではないと思う。日本のイノベーターとしての力はソニーのウォークマンの開発力・問題解決力を見れば明らか。シリコンバレー(移民)や中国(華僑)が成長している原動力を考えると、欠落しているのは教育ではなく、ダイバーシティ(多様性)ではないか。組織の中にいかに多様性を取り入れられるかが鍵を握っていると思う。
Q:中小零細から大企業まで、その多様性を取り入れるという時、変われるところ変われないところが出てくるが、コロナ禍で顕在化した医師不足問題など、現実問題として今一番必要な高度人材の獲得において、多様な働き方を保証しないと人材戦略が組めないと思うが、どのように考えるか?
A:高岡:全ての質問にお答えできるか分からないが、私自身、ネスレを退職後、自身の会社を立ち上げ、副社長を一人契約し、他府県にリモートで秘書を一人抱えているだけでスケジュール管理等行いながら運営している。今後はこのようにホワイトカラーもプロフェッショナル人材としてギグ(ギグワーカー:独立業務請負人)カラー化していくのではないか。
Q:私は35年前に宅配ロッカーを開発し、非対面が求められる現在、荷物ボックスシステムを開発中。今日のお話は非常に勇気づけられ、我社の社員にも励みになった。
A:高岡:宅配の問題解決はボックスしかないと思っている。中でも冷凍・冷蔵の機能を持ってIoTで繋ぐ必要があると考える。これからは生鮮食品を冷凍で流通する時代になるので解凍庫の技術も必要になる。そのような技術の集大成としてのボックス開発が顧客の問題解決に繋がり、ひいては各家庭にボックスが導入されると、再配達の問題(管理保存)がなくなり、流通コストを下げることができると思う。
◆高岡浩三氏 プロフィール
1983年ネスレ日本(株)入社、各種ブランドマネジャー等を経て、ネスレコンフェクショナリー(株)マーケティング本部長として「キットカット受験応援キャンペーン」を手がける。2005年ネスレコンフェクショナリー(株)代表取締役社長に就任。
2010年ネスレ日本(株)代表取締役副社長飲料事業本部長として新しい「ネスカフェ」ビジネスモデルを構築。同年11月より2020年3月までネスレ日本(株)代表取締役社長兼CEO。
2014年、自身が手がけた「ネスカフェアンバサダー」が第6回日本マーケティング大賞を受賞。2014年よりワールド・マーケティング・サミット・ジャパンカウンシル代表。
同年「The Internationalist」による「37 OUTSTANDING MARKETERS NAMED INTERNATIONALISTS」に選出。2016年コトラービジネスプログラムプレジデント就任。
2017年11月より早稲田大学ビジネススクール国際諮問委員。2018年4月よりテアトル東京アカデミー(株)社外取締役。2017年5月よりケイアンドカンパニー(株)代表取締役としてクライアントCEOに対するデジタルトランスフォーメーション(DX)を中心としたビジネスプロデュースとして活躍。
著書(共著を含):「逆算力」「ゲームのルールを変えろ」「ネスレの稼ぐ仕組み」「マーケティングのすゝめ」「世界基準の働き方」「21st Century Marketing: Digitalization and Transformation through Innovation」