活動レポート 大阪例会2021年2月25日

第48回例会 大阪

立命館大学 客員教授 薮中 三十二氏

写真:スペシャル講演/立命館大学 客員教授 薮中 三十二氏

スペシャル講演①は、医療法人宮松会 宮川内科医院 院長で、大阪でコロナ対策やワクチンについて最先端でご活躍の医師 宮川 松剛 先生にご講演頂きました。日本医師会予防接種・感染症機器管理委員会にも従事されています。2019年12月下旬中国での新型コロナウイルス感染症の発生以来、この100年体験したことが無い状況を世界が経験しています。この1年を振り返り、これまでどのように医療者は関わってきているのか、大阪での取り組みを中心にお話し下さいました。また今後、感染症収束に向けて期待されているワクチン接種が始まろうとしています。未知のワクチンであり情報も十分ではない状況でどう接種体制を構築していくのか課題が山積です国民はどう対応していけば良いのか具体的にお話下さいました。

スペシャル講演②は、サンデーモーニング等でお馴染みの立命館大学 客員教授 薮中三十二 氏にご講演頂きます。バイデン政権がスタートしましたが、アメリカの外交政策と米中対立の状況を中心に最新の国際情勢を分析下さいました。その上で、日本外交の直面する課題と今後の外交のあり方について、日米関係、日中関係、日韓関係、そして北朝鮮問題などについて詳しくお話し下さいました。

講演内容
スペシャル講演①

新型コロナウイルス感染症 現況と対応 -予防接種への課題

医療法人宮松会 宮川内科医院 院長 宮川 松剛 氏

医療法人宮松会 宮川内科医院 院長 宮川 松剛 氏

2021年2月大阪例会

これまで新型コロナウイルスに関して明らかになっていることは、目と鼻と口以外には入ってこないということです。これをいかに防御していくかが重要です。国立感染症研究所のデータによると、COVIT-19の症状として発熱や悪寒が55%、咳が24%、息切れや呼吸困難は6%、倦怠感や筋肉痛や頭痛なども見られます。また、味覚障害・嗅覚障害についてもよく取り上げられますが、割合としては5%程度となっています。感染者の中でも重症の肺炎になる方がいますが、基本的には軽症であれば肺のダメージはまずありません。しかし、若い方でも重症化した場合、肺の機能が壊されます。壊された肺は元には戻らないので、回復後も呼吸困難や息苦しさや慢性の咳が発症する危険性があるので注意が必要です。後遺症に関しては、半数以上の方が倦怠感や呼吸困難を訴え、2割程度の方が関節痛や胸痛を訴えています。年齢別に重症化していく率をみていくと、30歳台を1として40歳台では4倍、50歳台は10倍、60歳台は25倍、70歳台は47倍、80歳台は71倍、90歳以上は78倍というデータもあり、高齢化するほど重症化することが分かっています。

今まで、これほどまでに医師会に注目が集まり、メディアで取り上げられることはなかったと思います。大阪府医師会は17,427名の会員が在籍し、開業医は約8,000人、5大学も含め約9,000人が勤務医です。大阪府医師会では、新型コロナ発生後、1月30日には対策本部を立ち上げ、2月4日には会員向け研修会を開催し、新型コロナについての勉強会を行いました。PCR検査や抗原検査の実施方法や保険についての取り扱いなど、基礎になる土台部分を医師会で取り決めています。もちろん、会員向けに情報発信も行い、周知徹底に努めてきました。また、行政からの協力依頼にも実務レベルで調整を行い、医師の派遣等々、様々な取り組みをしています。ホテル療養体制については、実際に動線なども含め、私たちが実地調査を行いました。PCR検査についても、4月17日に行政からの依頼を受け、23日にはドライブスルー形式の検査外来の体制を整えました。また、大阪府医師会のみならず、府内8地域14の医師会も協力し、皆で務めてきたところであり、現在も継続中です。

今冬の診療体制については、全国で4,000万人ほどのインフルエンザやコロナの患者さんが出てくると想定され、大阪では1日に2万2千人の患者さんを診ていく計算になります。そうなると、指定された病院だけでは対応しきれないということで、かかりつけ医など身近な医療機関に相談する体制に移行するためのスキームを行政と共に進めてきました。入院患者の情報については大阪府が一括して管理し、医療機関との連携、各医療体制の過不足などを把握することで迅速に対応することができていると思います。様々なデータを元に大阪府と協議を継続し、最終的に最大で2万件まで対応できる検査体制を構築できたのではないかと思います。かかりつけ医によるコロナ検査(定性)の精度に関しては、多少落ちるにしても、これだけの数をこなせる体制を構築できたことは良かったと思っています。ただ、当然、診療も同時に行っていかなければならないので、患者さんが病院で診てもらえないという状況にならないように努めてきました。第三波において陽性者の入院数が増加傾向にあるのは、高齢者の重症化がその要因にあると思われます。若い人に比べ、回復が遅く、一度入院するとなかなか退院できないという現状があります。

新型コロナウイルスの抗体についての研究もなされており、感染者で治癒された方619名の血液検体の測定を行いました。それによると9割以上の方が6ヶ月経過後も中和抗体を保有していることが分かっています。つまり、再感染を阻止する中和抗体を6ヶ月保有することができれば、ワクチン接種によって1年間は持つだろうと想定されます。ワクチン接種による有害事象に関しては、痛みや発熱、頭痛や寒気など一定の割合で発現すると言われ、その中でも特に注意しなければならないのがアナフィラキシーショックという副反応です。米国の治験によると100万回に5件、英国では10万件に1件出る(ファイザー社ワクチン)という報告があり注意が必要です。また、ワクチンに関しては何社か挙げられる中で、ファイザー社のワクチンの移送・保管問題(保管温度-75°)が非常に困難を要するものでした。医療従事者や関係者への優先接種に関しては府が主体となり、住民への接種は集団接種・個別接種ともに市町村が主体になりますが、市町村においてはすでにある程度体制は整っており、ワクチンが来れば4月からでも接種できると思います。ただ、規制や-75°のワクチンの移送・保管問題によって制限され、個別接種できないことにより、なかなか効率的に広範に実施できず、1年を要しても終わらない可能性すらありました。ところが東京の練馬区がその壁を突き破り、区内約250ヶ所の診療所で個別接種できるような体制(集団接種と個別接種のベストミックス型)を整えました。そのことにより、現在、私たちも集団接種と個別接種のミックス型で実施できるように行政と協議を行っています。一般向けの集団接種は4月から実施できると思いますが、個別接種も同時に可能かどうかという現状です。

最後に、ワクチンという防御の盾を手に入れたとしても、治療薬という鉾をまだ持っていないという状況にあります。ですから、今はその防御をしっかりと行う必要があると考えています。まだまだ予断を許さない状況ですが、この困難を乗り切るべく、今後も職責を果たしていきたいと考えております。

Q&A

Q:いまだにアビガンが認可されない理由は?

A:明確な理由は不明だが、たとえば従来の治験のボーダーライン(5割以上の被検者の改善等)をクリアできなかったのではないか。

Q:コロナは第2類ではなくてもいいのではないか?

A:インフルエンザと同じ分類にするのは厳しい。感染者数に比して死亡数は少ない印象があるが、死亡率はインフルエンザに比べて圧倒的に高い。

Q:友人に無症状の陽性者がいて入院したのだが、見た目は元気だった。そのような状況が病院を圧迫しているのではないか。実際の入院状況は?

A:(入院に関して)重症者はもちろんだが、中軽症者の管理をどうするかは各保健所のトリアージによる。ただ、自宅で亡くなる方がいる以上、ボーダーを下げることは難しい。

医療法人宮松会 宮川内科医院 院長 宮川 松剛 氏

◆宮川 松剛氏 プロフィール

1959年 生まれ
1984年 金沢医科大学 医学部卒業 同年研修医
1986年 金沢医科大学循環器内科 入局
1992年 大阪市内にて内科診療所開設 法人化し現在に至る
1998年 大阪市内地区医師会 理事
2002年 大阪市内地区医師会 副会長
2010年 大阪府医師会 理事 現在に至る
2016年 日本医師会予防接種・感染症危機管理委員会 委員

スペシャル講演②

最新の国際情勢と日本外交 米中対立を見据えて

立命館大学 客員教授 薮中 三十二氏

立命館大学 客員教授 薮中 三十二氏

2021年2月大阪例会

2021年2月大阪例会

グローバル人材の育成が叫ばれる昨今、今こそ国際感覚豊かで優秀な人材を育てていく必要があり、私たちは歴史を遡って考察していかねばなりません。まず、第二次世界大戦後、アメリカは世界システム崩壊の危機に面し、アメリカ中心に国際協調していく世界を作る必要があると考えました。そこでWTOやIMFの設立による多角的自由貿易体制とNATOや日米安保の同盟関係による安全保障体制を構築し、世界秩序をもたらしました。その世界の警察官と言われ続けたアメリカ中心の世界秩序がいまや徐々に崩れ始め、オバマ政権ですら「アメリカはもはや世界の警察官ではないのだ」と述べるほど揺らいでおり、「アメリカン・ファースト」のトランプ氏はまさにその立場を強固に示したのです。そうなると当然ながら同時に日米関係も揺らぐことになります。しかし、日本にはトランプ氏を賞賛する風潮があり、世界を知らない井の中の蛙状態であることを露呈しました。

歴史的には、世界の自由貿易化の流れも着々と進んでいき、グローバリゼーションの波は工業品や農産品に留まることなく、金融やデータの自由化へ、サービス全般や知財についても例外なく交渉の俎上に載せることとなりました。このようなグローバル化の流れが加速するとともに、グローバル・サプライチェーンを持つ多国籍企業が国境を越えて世界中を席巻し、同時に貧富の差が拡大することになります。トランプ大統領が誕生した背景やイギリスにおけるBREXITの背景にはそのことが大きく影響したことは言うまでもありません。

そして昨年、コロナウイルスが世界的に流行し、グローバリゼーションの流れが止まってしまいました。ただし、現実的にモノやカネやヒトの動きが止まる一方で、インターネットにおけるオンラインの活発化など(デジタル・トランスフォーメーション)によってGAFAに代表されるビッグテック企業は最高益を上げました。また、オンライン化が加速する中において、正誤不確かなありとあらゆる情報が飛び交い、毎日のようにフェイクニュースが流れ、民主主義の危機に瀕していると危惧されるようになったのです。そして、アメリカ大統領選挙を迎え、トランプ氏に代わり、バイデン氏が新大統領に選出される運びとなりました。バイデン新大統領は「アメリカ・イズ・バック」を表明しましたが、かつての同盟関係を強固に進めていくというメッセージが込められたものと理解してよいでしょう。ただし、今後、それが円滑に進むかと言えば、私はなかなか厳しいのではないかと見ています。先日行われた安全保障会議において、バイデン新大統領は中国やロシアを念頭に、欧州諸国と手を携えて互いに協力し向き合っていかねばならないというメッセージを発したのに対し、ドイツのメルケル首相は、バイデン氏の大統領就任を祝しつつも、中国との関係については必要なパートナーであると述べたのです。経済的に見れば、競争相手であることに違いないが、同時に大切なパートナーであるということでした。フランスのマクロン大統領にいたっては「ヨーロピアン・オートノミー」と表し、アメリカに依存することなく、ヨーロッパ自身の自立・自主権・自己決定権によって自分たちで自分たちを守る時代が来ていることを表明したのです。

実のところ、バイデン氏の支持基盤である米国内の民主党自体も盤石とは言えない状況にあり、米国民の6割を超える人が海外派兵にネガティブであり、同じ民主党内の左派の人たちは自由貿易に対しても否定的なのです。ですから、オバマ大統領の下で副大統領として進めたTPPに関しても、おそらくは左派の人たちの反対によって前進することは難しい状況にあります。専ら、バイデン氏の喫緊の課題はコロナの収束ですので、国内的にはコロナ対策、対外的には経済の立て直しが至上命題となるでしょう。バイデン新大統領の目玉政策の一つと言える環境問題では、就任直後のパリ協定への復帰表明にあるように、脱炭素化は一気に加速すると思われます。今年に入り、GMが2035年には全車EV(電気自動車)化すると発表を行いました。そうなると、日本はこれまで通りのハイブリッド化では世界に遅れを取るのではないかと思います。EV化の流れは加速するでしょう。

日米の同盟関係において一番の鍵は中国問題だと言えます。バイデン氏は対中国を念頭に置いて、あらゆる場面において同盟関係を強調しており、それはEUのみならずアジアにおける日米同盟関係の重要性を意味します。ただし、ここで間違えてはいけないのは、決してアメリカは中国と戦争しようと考えているわけではないということです。さらに言えば、同盟国と連携して中国を封じ込めようとしているわけでもないことは知っておかなければなりません。米中の覇権争いにおいて、南シナ海における航行の自由やハイテク技術の規制などいくつかの戦略に沿って主導権を握っていくことが目的です。ただ、米国内の対中感情はここ数年で悪化しているので、バイデン氏が中国に甘い対応をすれば、自身の支持基盤が揺らぐことにもなりかねません。非常に難しい舵取りを強いられるでしょう。

そのような状況下、日本にとって中国とどのように向き合えばいいのでしょうか。米国同様に日本の対中感情は非常に良くありません。当然ながら歴史問題や尖閣問題など様々な問題を抱えており、中国の支配下など到底考えられません。そのような中で大国化していく中国の外交戦略にも大きな変化が見られました。戦狼外交と言われるようなこれまでにない攻撃的な外交スタイルへと変貌を遂げました。現在、マスク外交やワクチン外交とも言われる戦略によってギブアンドテイクを要求するような強気な姿勢は世界から顰蹙を買っています。ところが経済面においてはドイツ主導により中国EU間における投資協定に合意し、RCEPやTPPにも積極的な姿勢を示しており、逆にアメリカが孤立しているかのような雰囲気を醸し出しています。EU諸国もそれに若干引っ張られるような様相を呈しています。日本にとっても経済面で見れば中国は最大の貿易相手国であることに違いありません。そうであれば、対中平和攻勢外交を推し進めるほかありません。2008年に結んだ日中東シナ海油ガス田合意文書に基づいた合意事項は日中間において非常に重要な意味を持ちます。東シナ海を国際ルールに則った平和的で友好的な海として中国を追い込むことができるのです。また、ASEAN諸国は日本に対して好意的であり、一番信頼できる国は日本だと言っています。そのASEAN諸国にとっても日中関係が円滑であることを望んでいるわけです。その意味においても、日本はアジアをリードしていく意義は大きいと思います。日本の外交力・総合力によって国際ルールに則った自由で開かれたインド太平洋に中国を巻き込んでいくことが日本に求められる令和時代の新外交戦略ではないかと思います。

Q&A

Q:2,3年後に台湾を中国が軍事侵攻する可能性があると言われているが?

A:習近平氏にとって中国統一の実現は一番重要な目的だろうと思う。当初は経済的な一体化を目論んだと思われるが、逆の動きとして台湾独立という動きが中国を刺激した側面も否めない。中国としても米国や日本との関係上、軍事的な行動は難しい。バイデン氏はその意味においてトランプ氏よりも慎重になると思われる。結果として中国も無理な動きはしないのではないか。日本にとっても平和的な解決というメッセージを中国側に伝え続けていくべき。

立命館大学 客員教授 薮中 三十二氏

◆薮中 三十二氏 プロフィール

1948年大阪府生まれ。1969年外務省入省、韓国、インドネシア、米国在勤の後、北米第二課長(日米経済摩擦担当)、国際戦略問題研究所主任研究員(ロンドンIISS)、ジュネーブ代表部公使、外務本省総務課長、アジア局審議官を経て、在シカゴ総領事。2002年よりアジア大洋州局長(六者協議首席代表)、外務審議官(経済担当・G8サミット・シェルパ)、外務審議官(政務担当)を経て、2008年に外務事務次官。2010年外務省退官後、立命館大学客員教授、大阪大学特任教授。また、「グローバル寺子屋薮中塾」を主宰。

著書に『対米経済交渉』『国家の命運』『日本の針路』『世界に負けない日本』『トランプ時代の日米新ルール』『核と戦争のリスク(共著)』『世界基準の交渉術』

開催情報

開催日時:2月25日(木) 15:00~17:30
15:00 開会
15:00 開会の挨拶 
15:05 スペシャル講演①(医療法人宮松会 宮川内科医院 院長 宮川 松剛氏)
15:55 ブレイク
16:05 スペシャル講演②(立命館大学 客員教授 薮中 三十二氏)
17:30 閉会

場所:リッツカールトン大阪 4F ボールルーム ザ・ウエストルーム
〒530-0001 大阪市 北区梅田2丁目5番25号
TEL:06-6343-7000(代表)

地図URL:https://www.ritz-carlton.co.jp/access/


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