活動レポート 東京例会2021年3月18日

第49回例会 東京

国際ジャーナリスト 蟹瀬 誠一氏/笹川平和財団 上席研究員 渡部 恒雄氏

写真:スペシャル講演② 慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 教授 宮田 裕章氏

スペシャル講演①は、ご予定頂いておりました株式会社TimeLeap 代表取締役 仁禮 彩香 氏の体調不良により、急遽、当倶楽部の代表世話人で国際ジャーナリスト/明治大学 名誉教授の蟹瀬 誠一 氏にご講演頂きました。

スペシャル講演②は、2025年大阪・関西万博のプロデューサーに選出されメディアでも注目の高い慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 教授 宮田 裕章 氏にご講演頂きました。データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動をされていらっしゃいます。専門医制度と連携し5000病院が参加するNational Clinical Database、LINEと厚労省の新型コロナ全国調査など、医学領域以外も含む様々な実践に取り組むと同時に、経団連や世界経済フォーラムと連携して新しい社会ビジョンを描かれていて、その活動状況や知見をお話し下さいました。いのちを響き合わせて多様な社会を創り、その世界を共に体験する中で一人ひとりが輝くという“共鳴する社会”が、宮田様が共創する社会ビジョンの1つですが、その辺りの未来像まで幅広くお話頂きました。

講演内容
スペシャル講演①

「地下鉄サリン事件から26年:元幹部が語ったオウム真理教の闇」

国際ジャーナリスト 明治大学 名誉教授 蟹瀬 誠一氏

国際ジャーナリスト/明治大学 名誉教授 蟹瀬 誠一氏

2021年3月東京例会

今から26年前の1995年3月20日。朝の通勤ラッシュの時間帯に東京霞ヶ関を通過する地下鉄3路線の車両内でほぼ同時に猛毒の神経剤サリンが散布されるという前代未聞の無差別テロ事件が起きました。13人の命を奪い5800人以上を負傷させた地下鉄サリン事件です。犯行を行なったのは武装カルト集団オウム真理教でした。

先日、そのオウム元幹部上祐史浩氏と、公安の監視の眼が光る中、生放送で対論する機会がありました。

事件直後から、上祐氏は教団の広報担当として連日ワイドショーやニュース番組に出演して教団の関与を激しく否定していました。饒舌に屁理屈を捏ねることから「ああ言えば上祐」と言葉が当時流行したことを覚えていらっしゃる方も多いでしょう。

彼は95年に有印私文書偽造の容疑で逮捕・起訴され懲役3年の実刑を受けました。出所後はオウム真理教の後継団体であるアレフの代表になりましたが、内部対立から2007年に新団体「ひかりの輪」を設立しています。

教祖だった麻原彰晃をはじめ13人の幹部や実行犯はすでに死刑が執行されています。教団の中枢を知る数少ない生き証人の上祐氏に、私は未だに残る謎をぶつけました。

まず、オウム幹部にはなぜ理系の高学歴者が多かったのか、なぜ彼らはカルト教団に入信したのかと問うと、上祐氏の口からは「エリートならではの現実社会に対する絶望感」という答えが返ってきました。彼自身も早稲田大学大学院から宇宙開発事業団(現在のJAXA)に就職しましたが、将来に対する不安から教祖麻原彰晃の「世界戦争が起きる」という誇大妄想の陰謀論に引き込まれていったとのこと。

1000億円といわれたオウムの資金源も未だ謎です。上祐氏は入信者に差し出させた資産やパソコンショップの売り上げだと言いましたが、その程度で化学兵器開発や海外からの武器調達ができたはずがありません。当時、暴力団への覚醒剤密売が噂されました。しかし、それを知るキーパーソンだった教団幹部村井秀夫は1995年に暴力団員に刺殺されています。死人に口なしですね。上祐氏は暴力団との繋がりは知らないと主張しましたが、マインドコントロールのために入信者に覚醒剤などの薬物を投与していたことは認めました。

さらに、上祐氏自身の洗脳は本当に解けているのか。そのことを問うと、「オウム信仰から完全に脱却している」と主張し、教祖麻原を「人格障害者」だったと批判しました。しかし、そんな言葉を素直に受け止めることは私には出来ませんでした。なぜなら以前別の国際的なカルト教団の取材をした際に、洗脳を解くことがいかに難しいかを実感していたからです。一度だけでしたが、上祐氏が麻原のことを敬意を表わす「尊師」という言葉で呼んだことが気に掛かりました。

公安調査庁は「麻原の意志に従い、また、麻原の影響から脱していない」として、アレフやひかりの輪など3団体の観察処分を今年1月からさらに3年間延長しています。

カルト集団は恐怖や薬物などを巧みに使って他人の人生観や世界観を根底から覆してしまうことです。いちど洗脳されてしまうとそれを解くのは並大抵のことではありません。オウム真理教のような狂気と幻想は、格差と不安が広がる現代社会でさらに増幅しています。1月に米首都ワシントンの連邦議会議事堂を襲撃した熱狂的トランプ支持者の多くが信奉する陰謀論「Qアノン」もその危険な例です。

スペシャル講演②

「いのち輝く未来社会の共創」

慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 教授 宮田 裕章氏

慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 教授 宮田 裕章氏

2021年3月東京例会

新型コロナウィルス後の社会を創造することは、日本のみならず世界にとって避けて通ることのできない生き方全体に対する問いでもあります。これまでのような市場主義や経済合理性ではなく、多様性や未来への繋がり・持続性が重要視される社会への転換が不可欠です。その中において、2025年大阪万博をコロナ後の私たちの未来を描く好機と捉え、「いのち消さない」SDGsから「いのち輝く」SSVs(Sustainable Shared Values)へと新しい未来をデザインし、世界に発信していかなければなりません。

いまや経済を動かす駆動力としての資源はオイルメジャーからデータメジャーへと移行しており、データを収集し、管理し、活用することで国の対応すらも左右するほど、デジタル革命(DX)と呼ばれる文明の転換点にあり、そのことがまさにコロナ対策における各国のマスク管理の違いに現れました。日本はその点では対応が遅れたと言わざるを得ません。

一方で、私もアドバイザリーボードメンバーとして関わっている厚生労働省では、LINEを使って全国調査を実施し、新型コロナウィルス対策のパーソナルサポートに役立つフォーマットを構築しました。ここで重要なのは一律対応ではなく、個別に最適化されたリアルタイムのフォローアップという点です。また、集約された情報は予防対策にも役立てられます。ただ、直近では、変異株の出現によって、さらなる対応が必要となり、私たちはこのような不確実性の中に生きていること、そして日々変化し続ける社会の中でデータ価値の高まりを実感しています。

デジタル革命は、様々な領域で多様性のある社会を実現するため進化し続けています。例えば、DXと保険、DXと製薬など、これまで得意とする専門分野で捉えていた概念を、健康管理の観点から捉え直し、集団から個の細分化されたデータ分析を行うことで、アプリを通じて体験として健康を実現していくという方向へ転換し、成功している中国企業の事例もあります。

このように「最大多数の最大幸福」だった価値観から「最大“多様”の最大幸福」へ移行していく転換期を迎えています。それは統治者発想から生活者発想へ、独占資本発想からデータ共有発想へ、そして短期収益至上主義から持続可能な社会へと発想を転換し、個を捉まえて体験を一緒に作っていく時代が来ているということなのです。

また、データの活用に関してもここ数年で一気に変わりました。一人ひとりのデータは国や企業が独占するのではなく、オープンなデータとして共有できるようアクセス権を確立することが重要な点です。EUのGDPRという一般データ保護規則によって世界は大きく変わり始めていますが、彼らは「共有する」という部分を見落としていました。ただ、その共有という部分で成功したのがワクチン開発です。これまで排他的にデータを所有し3,4年かかった開発が、データ共有の枠組みを構築することで、ウィルスなしでも9ヶ月でワクチンを作ることが可能になりました。現在は変異型に対応するために、そのウィルスを確認する前に共有した情報をもとに、すでにワクチン開発に着手しているとのことです。

ただ、データアクセス権が人々に還元されると、GoogleやMicrosoftなどのGAFAMですらビジネスが立ち行かなくなります。そこで彼らは「AI for social good」「AI for health」など掲げ、良いことをしているのでデータを使わせてほしい、健康やいのちのためにデータを使わせてほしいと言っているのです。そうなると、これまで病院内に留まっていた健康に関する情報が、アプリを通して枠を超え、その人の健康管理にアクセスすることで一人ひとりに寄り添うことが可能になります。

では、これからの私たちの社会はどのように描いていくべきでしょうか。これまで豊かさを計る指標はGDPでした。しかし、経済合理性によってこぼれ落ちたいのちや人権、環境や教育などの犠牲のもとに測られたGDPという指標では、もはや真の豊かさを測れないのではないかという声が高まり、それらの指標をも包摂し、生きることの輝きこそが豊かさであると再定義すべきと指摘されています。

ただし、独りよがりな豊かさでは持続しないことがこのコロナによって明らかになりました。私たちの未来は、一人ひとりの「生きる」が響き合いながら互いの道を照らし、多様ないのちが輝く社会をともに作っていく世界を描いていかなければなりません。それは健康のためにただ病気を予防するだけではなく、生体システムや環境や社会と調和しながら、魅力的な生き方を追求し、自然に健康が保たれ、誰も取り残さず一人ひとりが“いのち輝く”生き方ができる「Better Co-Being」を実現することにあるのではないでしょうか。

Q&A

Q:シングルマザーに代表されるような制度に手が届かない弱者の方々をデータを駆使して掛け算で救おうとおっしゃっていたが、大阪万博2025でどのように表現されるのか?

A:シングルマザーに関しては河野大臣と進めているので、万博を待たず1~2年の間に実現したい。現在、協賛している企業の多くは万博を通過点と捉え、新しい社会を構築しなければならないという問題意識を共有している。

Q:個性的なファッションについて

A:TPOに合わせた装いも大事で好きなのだが、一人ひとりの多様性を提唱している人間として、あるいはイノベーションの提唱者としての装いを意識している。本来、制服というレギュレーションの中でも自分の個を表現すべきだが、日本は個をなくすという誤った方向で運用をしてきたと思う。時代は変わり、ある枠組みの中でも個を素敵に表現すること、そのことを考えること自体がイノベーション創出に繋がるのではないか。個性的なファッションは、ひと目で分かりやすく、かつ批判を恐れず自己表現した覚悟の現れと捉えていただければと思う。

慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 教授 宮田 裕章氏

◆宮田 裕章氏 プロフィール

1978年生まれ 慶応義塾大学 医学部教授

2003年東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)早稲田大学人間科学学術院助手、東京大学大学院医学系研究科 医療品質評価学講座助教を経て、2009年4月東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座 准教授、2014年4月同教授(2015 年 5 月より非常勤)、2015年5月より慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 教授、2020年12月より大阪大学医学部 招へい教授

〈社会的活動〉
2025日本万国博覧会テーマ事業プロデューサー
うめきた2期アドバイザー
厚生労働省 保健医療2035策定懇談会構成員、
厚生労働省 データヘルス改革推進本部アドバイザリーボードメンバー
新潟県 健康情報管理監
神奈川県 Value Co-Creation Officer
国際文化会館 理事
The Commons Project 評議員、日本代表
専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation


開催情報

2021年3月18日(火)15:00~17:30

15:00 開会
15:00~15:05 代表幹事挨拶
15:05~15:50 スペシャル講演①(国際ジャーナリスト 明治大学 名誉教授 蟹瀬 誠一 氏)
        ※ご予定頂いておりました株式会社TimeLeap 代表取締役 仁禮 彩香 氏に代わり、急遽、蟹瀬 誠一 様にご講演頂きました。
15:50~16:00 ブレイク
16:00~17:30 スペシャル講演②(慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 教授 宮田 裕章氏)
17:30 閉会

帝国ホテル東京 本館3階・舞の間
東京都千代田区内幸町1-1-1
TEL:03-3504-1111

地図URL:https://www.imperialhotel.co.jp/j/tokyo/access_map/index.html


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