賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
受付時間 平日9:30~18:00
スペシャル講演①は、弁護士として種々の企業の運営を垣間見る経験から、今後10年で、起こる変化を予想した未来志向についてお話し頂きました。
スペシャル講演②は、政治はなぜ変わらないのか?政権交代はなぜ起きないのか?日本社会が安定している要因は何か?独自の価値観調査で日本人の本音を解き明かしつつ、「分断の時代」に日本は何を必要としているのかについてお話し頂きました。
講演内容
新型コロナウイルス(COVID-19、以下、「コロナ」)の影響により世界各国の経済環境が激変し企業の組織・運営と働き方に大きな変化が生じています。コロナはそれ以前から発生していた企業を取り巻く様々な変動要因に基づく変化を一挙に顕在化・加速化させました。このような未来に起こりうる変化をリアルに体験できるものとして受け止め、将来指向で、企業の組織・運営と働き方を変革してゆく好機と捉えるべきでしょう。
これまでの日本の従来型の雇用形態や企業の組織形態は、今後、どのように変化していくでしょうか。日本の雇用形態は既に制度疲労を起こしており、従業員に企業の都合に応じて、いつでも、何でも、どこでも仕事を強いるメンバーシップ型の雇用とこれを支える新規一括採用、年功給、終身(長期)雇用制度などかつて社会の安定装置と見られた正社員中心の雇用体系は、いまや社会経済環境に必ずしもそぐわないものになってきています。
企業中心の生活や価値観を過度に働き手に強いる雇用は、働き手のライフ・ワーク・バランスの悪さ・キャリア形成の難しさ・エンゲージメントの低さなどの問題が指摘されています。今後のグローバルな視点の経済環境・技術革新の変化と人材獲得を見据えると、従来の日本型雇用を維持することはかなり困難といわざるをえないでしょう。優秀な人材の確保、特に優秀な人材が海外流出を回避するためにも、これまでの硬直的な日本企業の労働慣行は改善してゆく必要性が高いと思われます。
さらに、今後の企業の組織・運営と人々の働き方を急速に変貌させる推進力(ドライバー)は、① ICTによるリモートワーク化 ② インターネット上のプラットフォームを活用した人材・スキルのマッチング・シェアリング ③ VR、AR、遠隔技術、言語翻訳機能の向上などであり、このようなテクノロジーにより、場所的時間的制約を超えた働き方、さらにボーダーレスな人材確保などが急速に進むことが予想されます。
もちろん、現場でしか労働できないエッセンシャルワーカーなど、私たちが日々の生活において絶対に必要な労働における技術やスキルは守らなければなりませんが、このような業務もロボットの活用、アメリカなどで劇的に増加しているギグワーカーなどの非正規雇用、海外からの労働力流入で置き換わることが予想されます。
現在、我々の身の回りにある多くの労働は、純粋な肉体労働を除けば、概ねリアルとネットが交錯した環境で提供されています。このような労働についても、企業経営上、いずれかの段階でAI、RPAなどの活用により業務が「スマート化」してゆくことはさけられないでしょう。様々な業務プロセスの効率化が進めば、これまで曖昧だった仕事内容がより明確化され、徐々に技能重視のジョブ型雇用にシフトすることが予想されます。
一部のIT系企業などでは地方に拠点を移し、インターネット上で繋がり、様々に事業展開するという形態も見られますが、もはやリゾート地や観光地などでテレワークをする「ワーケーション」や、国境を超え、世界中を転々と旅しながらITを活用し働く「デジタル・ノマド」など、多様な働き方にも対応していくことが今後の企業の大きな推進力となるでしょう。欧米では、インターネットのプラットフォーム上でスキルや技能をシェアリング・マッチングする労働環境が整ってきており、独立業務請負人というギグワーカーが急増しています。それは知識提供型の士業のみならず、Uberに代表されるような単純労働型でも進んでおり、日本においても、この波は避けられないでしょう。
私たちの働き方だけでなく、企業にとって優秀な人材確保は事業を進める上で枢要な位置を占めますが、これからは多様で柔軟で自由な働き方を提供できなければ、優秀な人材の確保は厳しいでしょう。また、プロジェクトごとの期間雇用や請負形態による人材獲得、海外からのスキルや知識提供の受け皿、遠隔技術やVR・ARの活用など、これらを推進していくことが一つの鍵となるでしょう。
デジタル化が進むということは、企業の維持管理コストの削減にも大きく貢献します。大都市集中型から地方分散型へ、あるいはコンパクトオフィスやバーチャルオフィス、さらにはオフィス不要論まで現実化しています。また、大企業にとっては環境に配慮したSDGsに対応すべく事業展開していくことも大事な要素です。
このように、ポストコロナを迎えるにあたり、急速に進むデジタル・エコノミー化の中、時代を先読みし、ビジネスチャンスとして多様な働き方や新しい企業形態を取り入れ、的確に対応していくことが求められているのではないでしょうか。
Q かつて日本企業にあったような愛社精神、今でいうエンゲージメントはどのように変化しているのか?今後、どのように変化していくのか?
A カリスマ的経営者がもたらす愛社精神を維持できる環境が整っているケースは格別、従来の日本型雇用慣行を根底においたうえでの「愛社精神」は、ほとんど有効性を持ちえなくなるのではないか。従業員のエンゲージメントを重視し、企業が生産性向上に享受できた利益を従業員に還元し、自由で多様な労働環境を提供していくことで優秀な人材を獲得していくという形態が企業に求められるのではないか。企業内でなんでもこなす社員であるよりも、ある分野に特化した専門性を持った人材のジョブ型雇用形態を重視せざるえないでしょう。優秀な経営者が開明的な人事政策を取り従業員のモチベーションを上げる必要もあるし、働き手は、会社頼みではなく、自ら能力開発に取り組む必要があると思います。
◆山岸 洋氏 プロフィール
略 歴
1959年 大阪で生まれる
1983年 東京大学法学部卒業
1986年 弁護士登録(第二東京弁護士会)
1990年 三宅坂総合法律事務所を創業設立
35年の弁護士としての実務経験を踏まえ、所属弁護士34名、スタッフ含め約50数名の態勢で、広く日本国内・海外に亘る広範な企業経営に必要な法務コンサルティング業務対応を行っている
主要な取扱業務
会社法務(各種顧問業務・企業ガバナンス対応・企業紛争・不祥事対応・社外取締役)
労働法務・知的財産・IT法務
M&A・資本提携・業務提携・ベンチャー
投資プロジェクト関連(不動産・再生エネルギー・非公開株式)
海外法務(米国・中国・台湾・香港・ASEAN諸国・インド等海外関連取引・M&Aなど)
アジア実務家を育てる「アジア・ビジネス・スクール」(略称AIBS)の「アジア法務」講師
日本の政治は先進国の中でも極めて安定しているというのが定評です。日本政治における人々の価値観を測る前に、まずはトランプ氏が勝った大統領選を振り返ってみたいと思います。日本のマスコミではトランプ氏勝利を番狂わせと表現し、反移民感情によるものであるなど、様々な定性的な評論が見受けられました。しかし、定量的な評価はあまり見られません。
そこで、あるアメリカの研究者チームが行った調査を見ると、回答者の価値観の分布から2016年米大統領選の投票の実態が見て取れます。社会思想を縦軸に、経済思想を横軸に、それぞれ保守とリベラルに分布した図です。通常、社会保守・経済保守は共和党の支持者、社会リベラル・経済リベラルは民主党支持者で固められていますが、割合としては後者のほうが格段に多く、そのままであればダブルスコアで民主党が勝つことになる。そこで、共和党は社会保守・経済リベラルに浸透をはかってきました。
なぜ、トランプ氏が勝利したのでしょうか。それは、社会保守でありながら経済リベラル~中道に位置する人びとをより多く取り込んだからなのです。具体的には、インフラ投資をし、政府の支出を拡大することや従来型の産業に従事する労働者の権利を守ることなどの主張がラストベルト(錆びた工業地帯)の白人労働者たちの支持を得て勝利を収めました。
翻って、日本の場合はどうでしょうか。日本政治の安定は、変わらないこと、変革ができないことと背中合わせですから、そうした状況が続くと社会に閉塞感を生み出します。また、どの党も米国のように党派性による支持基盤が盤石とは言い難く、自民党の一部では強固な支持基盤があるものの米国のような堅牢な支持基盤があるとは言えません。なぜ、日本では自民党の一党優位が安定的に存続しているのでしょうか。
米国は保守とリベラルが党派性によってしっかりと「分断」されており、政権交代可能な二つの基盤が築かれています。ところが、日本で政権交代が起きないのは、その「分断」が不十分であるか、あるいは偏ったイシューにあるからではないかという仮説の下、調査分析を行いました。結論から言うと、日本が他国と異なるのは、日本における「分断」が憲法と同盟に偏っているがために政権交代を妨げているからです。日米同盟や日米安保が問われる時、日本人の多数を占める価値観がリアリストであるため、常に自民党が優位に立つ結果となっている。また、外交安保の価値観対立が加熱することにより、重要な経済社会政策の論争がなおざりにされることも一つの要因です。
特に、若者の関心が高い社会問題に関する政策論議が不十分なうえ、世代間で関心の高い政治課題が乖離しているために、外交安保のイデオロギー対立が加熱すればするほど若者の政治関心が低下するという状況を生んでいるのではないかと思います。また、野党も外交安保における理想主義に流れ、若者が関心を抱くような社会政策に対する熱量があまり高くないことも人々の政治離れの一因でしょう。
巷では若者の「保守化」が叫ばれていますが、それは事実ではないと言えます。出口調査では、確かに若者は自民党により投票する傾向があります。しかし、全体に対する調査では、自民党は必ずしも若者に高く評価されているというわけではありません。幅広い年代の回答者に、支持政党を聞くのではなく、各政党を4段階評価してもらうと、自民党への高評価はわずか8%。次にやや評価の割合が38%、やや低評価が21%、低評価が16%となりました。
これを年齢別に見ても、若者は全体の傾向とさして変わりありません。いったいに、若者は人生経験が浅いために、曖昧で中立的な答え方をする傾向が強いのですが、高齢者はイデオロギーが固まっており、比較的はっきりと態度を表明する傾向にあります。
それぞれの価値観が自民党への投票行動に影響する度合いを本音建前分析のグラフに表すと、憲法改正や集団的自衛権行使容認や防衛予算増強などの価値観を持っている人ほど、選挙に必ず行って自民党に票を投じている度合いが高いことが分かりました。逆に、消費税問題や財政規律の問題などの経済問題や社会問題にかかわる価値観は、それほど投票行動と相関が高くないことも見えてきます。
比例代表で自民党と立憲民主党にそれぞれ投票した人の価値観分布を見てみましょう。外交安保と経済における価値観の分布を二軸で見てみると、自民党に投票する人は外交安保リアリズムが際立っています。立憲民主党に投票する人は外交安保でもう少し中道からリベラルよりに分布していますが、どうも立憲民主党は実際に投票してくれる人の真ん中の価値観よりもリベラル寄りに舵を切っている印象があります。また、経済と社会問題における価値観を分布してみると、自民党は保守層だけでなく、自由主義層の票も多く獲得しており、一方で立憲民主党は社会リベラルの票を取り切れていないことが分かりました。
今後、日本において米国のように政策的「分断」が起こるとするならば、日米安保の信頼性が問われ、中国の軍事増強や北朝鮮の核問題などがさらに激化していくことで、日本人全体がリアリストになるときかもしれません。その場合、外交安全保障に対する左右対立が党派性を超え消失します。すると、その他のイシューでの本格的な対立が先鋭化し、そちらの論点で政党がすみわけるようになっていくことが予想されます。メディアで伝えられている選挙の争点は、実際には投票の動機と異なることが多い。もしこのまま日本政治が外交安保に関わる価値観の分断を中心に回り続けるのならば、日本の停滞は今後も続くでしょう。そうならないためにも、日本政治を新しい目で見直し、自分自身の価値観を把握することは重要です。弊社サイトに掲載されている「あなたの価値観診断テスト」でぜひ、ご自身の価値観を客観的に見てみてはいかがでしょうか。
◆三浦 瑠麗氏 プロフィール
1980年神奈川県生まれ。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治が専門。東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了、博士(法学)。東京大学大学院公共政策大学院専門修士課程修了、東京大学農学部卒業。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て2019年より現職。主要業績に、『21世紀の戦争と平和―徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)、『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)がある。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文春新書)』など、著作多数。