賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
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第一部スペシャル講演は、衆議院議員 経済産業委員会筆頭理事で元経済産業副大臣の関芳弘氏にご講演いただきました。かつて世界の半導体シェアの50%を占めていた日本が、90年代以降国際競争力を失っていった原因とは。自ら半導体戦略推進議員連盟を立ち上げ、再興を目指す日本の取り組みについてお聞きしました。
第二部スペシャル講演は、衆議院議員で防衛大臣や農林水産大臣、国務大臣などを歴任された石破茂氏にお越しいただきました。ロシアのウクライナ侵攻、阿部元総理の殺害、急激な円安、激しく変わりゆく時代をどうとらえるか。戦争が起こる5つの要因や台湾有事における日本への影響、日本人の危機意識など幅広くお話いただきました。
ぜひお二人の貴重なお話をアーカイブでもご覧ください。
講演内容
私が昨年、半導体戦略推進議員連盟を立ち上げたのは、菅総理が訪米し、バイデン大統領と会談が行われた中において、半導体について、今後、日米で連携して一緒に推進していこうという話があったことがきっかけです。自民党内にその議員連盟がなかったので、甘利議員らを通じて立ち上げる運びとなりました。
今日までの日本の半導体シェアの歴史は、1980年~1990年代を頂として残念ながら凋落の一途です。半導体は家電製品やインフラ設備、あるいはテレビやゲーム機などの娯楽から産業用ロボットまで、あらゆる分野でコンピュータの性能向上に貢献しているわけですが、主として自動車やパソコン、携帯電話やカメラやAI人工知能など、半導体の高集積化により、情報処理能力が飛躍的に伸び、私たちの生活のあらゆる場面になくてはならない社会インフラとして組み込まれています。日本はかつて、世界の半導体シェアの50%程度を誇っておりましたが、1986年に、日米貿易摩擦解消の名のもと、日米半導体協定(第一次86年~91年、第二次91年~96年)という協定が結ばれ、90年代以降、急速に国際競争力を失っていきました。また、半導体の主流がメモリ(記憶素子)からロジック(論理素子)に移行していった時、日本が立ち遅れたことも原因の一つとされています。今や、そのシェアも世界の1割程度に落ち込んでいる状況です。
また、これまで日本では一企業が設計から製造までを請け負う中において、半導体の技術革新に投資するだけの体力がなかったのも凋落の一因だとも言われています。他の分野に比して、一企業が半導体分野に投資する割合は非常に高く、全体の8割近くを占めるなどと言われており、当然ながら一民間企業としての負担は大きく、それだけ難渋し、経営判断(半導体新技術に投資する決断)も遅れたということも言えるかもしれません。もちろん、それだけが原因ではなく、ある意味、日本が半導体世界トップシェアだった驕りもあったかと思います。さらには、時代背景として、バブル崩壊のダメージも大きく、OEMにおける技術流出も痛手となり、全てが悪循環となって右肩下がりとなって現れたのではないかと思われます。現在、世界の半導体技術の最先端は2ナノですが、日本では40ナノ止まりと、非常に厳しい状況にあることも現実として受け止めなければなりません。
ただ、日本の半導体は3周遅れと言われている中において、今後、日本の半導体分野の再興を目指し、ひいては日本経済の復興を牽引すべく、日米連携のもと、新しいプロジェクトも進んでおります。このたび、日本政府が台湾の世界最先端半導体企業「台湾積体電路製造(TSMC)」を九州に誘致し、新規投資1兆円のうち、半分の5千億円を負担し、産官学連携の国家プロジェクトとして推進していくことになっております。現在は20ナノレベルの生産ライン拠点ですが、今後、さらに最先端の拠点誘致も視野に入れております。産業の「コメ」は半導体。この分野をしっかりと進めてまいります。
◆関芳弘 氏 プロフィール
関西学院大学経済学部卒。卒業後は住友銀行(現三井住友銀行)にて17年間勤務。
2005年9月の第44回衆議院議員総選挙に自由民主党公認で兵庫3区から出馬し初当選。経済産業副大臣、環境副大臣を歴任。また、自民党の副幹事長を5度務める。現在衆議院 環境委員長。
まず初めに、今年の1月頃、世の中がこのような状況になるとは誰も予想できなかったのではないでしょうか。安倍元総理の殺害、急激な円安、ロシアのウクライナ侵攻。これらを正確に予測していた人はいないでしょう。歴史は繰り返す、とまでは言わずとも、100年前の出来事と今現在の状況は非常によく似ています。スペイン風邪、世界大恐慌、そして第二次世界大戦。これらの歴史を教訓とし、我々日本が今後どのように戦禍を防がなければならないかを真剣に、かつ現実的に考えなければなりません。
そして、激しく変わりゆく時代を迎え、平成とは何だったのかという総括も必要でしょう。私の政治の師である、日中戦争に従軍した田中角栄先生の言葉を思い起こします。「あの戦争に行った者がこの世の中心にいる間は、日本は安泰だ。しかし、あの戦争に行った者がこの世の中心からいなくなった時が怖い。だから、よく勉強しなければならない」と生前、よく仰っていました。戦後が終わったのが平成、民主主義と資本主義が変質を遂げたのも平成だと、私は思います。
民主主義が機能するには、そこに出来る限り多くの人たちが参加する状況をつくらなければなりません。ワイマール憲法下でナチスが政権を獲ったように、特定のイデオロギーを共有する人たち、特定の利害を共有する人たちは必ず選挙に行くわけですから、投票率が下がれば下がるほど、そのような人たちが政治を壟断するのです。この国や自分の住んでいる地域がどうなろうと知ったことではない、という考えでは、主権者の名に値しないと思います。ですから、民主主義を機能させるためには、投票の義務制も含め、仕組みを考えていく必要があります。多様な言論があってこそ、健全な民主主義が機能するのです。そして、健全な民主主義とは、少数意見を無視せず、大事にすることです。国会での政府と野党との議論は、野党議員を相手に質疑応答しているだけではなく、その議員の後ろにいる国民に向けて語りかけるべきものです。その意味において、ここ最近は本来の民主主義があまり機能していないのではないかと危惧しています。
また、資本主義も姿を変え、先鋭化したと感じています。資本主義の根幹には搾取や格差の構造がもともとあり、私たちはこれを修正しながらやってきました。国内で資本主義を持続させるには、人口増加が見込まれ、消費者が増えなければなりません。ところが、今の日本は1年間に60万人ずつ人口が減少しています。この先、1年間に100万人が減る時代が来ます。コロナの影響もあって、婚姻数も出生数も激減し、史上最低になる恐れすらあります。AIやロボットで労働環境をよくしたり生産性を上げたりすることはできるでしょうが、ロボットそれ自体が消費したり、税金を払ったりはしないので、そういう意味では私たちの代替になりようがありません。消費者が消費をしない主因は、日本の社会保障制度に将来不安があるからであって、その原因を解消しない限り、健全な消費の増加、それによる経済の好循環は起こらないのではないでしょうか。
さて、戦争が起こる原因は主に5つ。領土、宗教、民族、政治体制、経済間格差です。ウクライナ戦争ではウクライナ正教とロシア正教という宗教の側面もあります。領土で見れば、ロシアにとっての周辺緩衝国がNATOに加盟するのは認められないという地政学的な側面もあるでしょう。ただ、ウクライナとロシアを単純な善悪の二項対立で捉えては、戦争の終結は見えてきません。プーチン氏からすれば、クリミアの成功体験が今回の侵攻に繋がったのでしょうが、2014年当時の脆弱なウクライナ軍を見た米国が徹底的に訓練し、強化したので、ロシア軍が苦戦を強いられているという状況にあります。おそらく長期戦は必至ですが、問題は終戦後の復興がどうなるのかということです。ロシアが賠償金を払うとは思えない。ウクライナは自力で復興できない。となると、回り回って、日本も財政支援する役割を担うかもしれない。つまり今後、日本国民の税金が使われるかもしれないという議論にもなってくるはずです。また、米ソ冷戦期のパワーバランスは核の均衡によって保たれていたわけですが、ウクライナがブダペスト覚書で核を放棄したことが今のウクライナの悲劇を招いた一因となっているという見方もできます。
目をアジアに向けると、先に行われた中国共産党大会で、7人の党幹部が皆同じ格好をしていました。側近をイエスマンで固める指導者の国は危ないという危機感を強くしました。中国の政治体制は共産主義、経済はほぼ資本主義と矛盾しており、沿岸部と内陸部の貧富の格差という矛盾もあります。これらに国民の不満が募り、その不満を包摂し、目線をそらすために対外的に敵を作り、中華民族の統一を誇示する。その矛先が台湾に向けられているのではないかと思われます。このような状況下、もし台湾を中国が吸収してしまえば、原子力潜水艦が太平洋に出張ってくることは間違いないでしょう。米国としては絶対に阻止しなければなりません。その意味では、日本にとってはウクライナよりも台湾問題のほうが死活的となります。先日、訪台の際に言われたことは、「中国が台湾に攻めてきたら、台湾の空軍戦闘機を嘉手納基地に避難させたい。その時、日本はどうするのか?」という非常に現実的な問いでした。そうなった時、日本は台湾の戦闘機を受け入れるでしょう。しかし、中国からは間違いなく敵としてみなされます。そのような想定も現実のものとして考えなければなりません。そうなると、今の海上保安庁、海上自衛隊、それらの法令、そして日本国憲法が、直面する現実問題とそぐわず、混乱をきたす可能性もあります。そうならないために、私は抑止力としての核共有も含めて、国民全体で聖域なき議論を行い、真剣に向き合うべきだと考えます。
最後に、皆様におかれましては、ぜひ、昭和15年2月2日に帝国議会で行われた立憲民政党の斎藤隆夫氏の反軍演説をご一読いただければと思います。健全な言論がなければ、民主主義が滅び、国が滅びてしまうのです。
◆石破 茂 氏 プロフィール
慶應義塾大学法学部卒。1986年、衆議院議員に全国最年少で初当選。
以後、11期連続当選。防衛大臣、農林水産大臣等を歴任し、2014年に初代地方創生・国家戦略特別区域担当大臣に就任。
『国防』『国難:政治に幻想はいらない』『日本人のための「集団的自衛権」入門』『日本列島創生論 地方は国家の希望なり』など著書多数。