賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
受付時間 平日9:30~18:00
第一部では、ロシア問題といえばこの方、筑波大学 名誉教授の中村逸郎(なかむらいつろう)氏にお越しいただきました。
ウクライナ侵略による国際社会への経済的影響など、様々なお話をたっぷりと語っていただきました。
第二部では、キャスターとしても広くご活躍されている、ジャーナリスト・堀潤(ほりじゅん)氏にお越しいただきました。
紛争地などの国内外へ実際に足を運び、現地を体験したご本人からでなければお聞きできない貴重な“事実”を存分に語っていただきました。
講演内容
ロシアによるウクライナ軍事侵攻によって、ウクライナ人の生活は一変し、多くが難民として国外脱出を余儀なくされました。一部の人たちは日本に避難し、日本政府の支援によっていまだに仮住まいにて日々慎ましく暮らしています。ある家族に連絡を取ると、日本語を学んでいたが、それも辞め、現在は掛け持ちのアルバイトをしているとのこと。理由を聞くと、ポーランドに避難した家族に仕送りをするためだという。このように、多くのウクライナ人は家族が散り散りに逃げ暮らさざるを得ず、経済的にも悪化の一途を辿っています。
プーチン大統領の残虐性は様々に伝えられています。一つには、動員され亡くなった遺族に対して開口一番かけた言葉「人間は死ぬものなんだ。病気や交通事故でも死ぬ。皆さんのお子さんは祖国のために死んだんだ」に象徴されているように思います。元々、貧しかった幼少期のプーチンは自分が住むボロアパートのネズミを4階に追いやり、追い詰められたネズミが自分に飛びかかってきたのを1匹ずつ捕まえる遊びをしていたそうです。プーチンは「裏切り者はどこへ逃げようとも絶対に捕まえてやる」と言っていますが、まさに幼少期のネズミ遊びのようです。
また、プーチンはロシア正教の敬虔な信者と言われています。ロシア正教会は毎年1月中旬に魂を清める神現祭を執り行っています。これまで毎年参加していたプーチンは、実はロシアがウクライナへ軍事侵攻した年以降、一度も参加していないのです。それは地獄へ行く覚悟ができている意思の表れなのか、あるいは自身を神格化することで魂を清める必要がない存在と思っているのか。このように話してくれた知人のカリーニ司祭は一切の役職を解任され、数日後に心臓発作を起こしたと報じられました。もしかすると、彼はプーチンにそのことを告げたのではないか。彼とは現在連絡が取れなくなっている状況です。
では、この戦争をどうやって止めるのか。狂気に陥っているプーチンを止めるにはロシア人自身が立ち上がるしかありません。クーデターやテロによって覆すしかありません。ロシア国内のリベラリストたちの民主化運動で変わる可能性は低い。何故なら、その殆どが続々と海外移住しているからです。私は長年に渡りロシアを学んできました。私にとってロシアは2014年まで「おもロシア」でしたが、クリミア侵攻後は「おそロシア」へ、そしてウクライナ軍事侵攻後は「こロシア」へと変貌を遂げてしまったようです。
Q:ロシアに対する中国の出方について
A:世界秩序に関して、中露関係は非常に重要。先日の首脳会談においては、中国はロシアにはついていけないという局面が見えてきた。習近平にとっては対露よりは対米に重きを置いており、ロシアカードは対米に使いたい思惑がある。一方で、中露首脳会談の日にラブロフ外相が北朝鮮を訪問し大歓迎を受けているので、今年中にプーチンが北朝鮮を訪問する可能性もある。狙いは北朝鮮に戦術核を置くことではないかと思われる。
◆中村 逸郎 氏 プロフィール
1987年学習院大学大学院博士後期課程単位取得退学、博士(政治学)、モスクワ国立大学とロシア連邦科学アカデミーに留学、島根県立大学助教授を経て、2001年筑波大学社会科学系助教授、07年人文社会系教授、国際総合学類長を経て22年定年退職。「めざまし8」(フジテレビ)のレギュラコメンテーターを務める
単著
『ロシアを決して信じるな』(新潮新書)
『シベリア最深紀行―知られざる大地への七つの旅』(岩波書店/文藝春秋)
『ろくでなしのロシア―プーチンとロシア正教』(講談社、2013年)
『虚栄の帝国ロシア―闇に消える「黒い」外国人たち』(岩波書店、2007年)
SNSの発達により、かつての大手メディアが発する情報を一方的に受けとるだけではなく、双方向型市民メディアが活躍できる時代となりました。情報の民主化とも言うべき世界中の人々の平和や民主主義や自由を求める声を伝える市民ジャーナリズムの出現は社会の多様化に伴う必然です。学生時代より双方向メディアを希求していた私がNHKを退社し、8bBitNewsを立ち上げたのはその流れのひとつかもしれません。“現場を取材し、地元の声を直接皆さまにお届けする” そのような市民メディアを目指し取材活動を行ってきました。
今もなお世界各地で戦争や紛争が行われ、様々な政治的な立場や思惑が顕在化する中、私が取材している一つにルーマニアがあります。政府主導の下、学生寮を開放し、ウクライナ難民の受け入れを行っていますが、来年には予算が枯渇するため、政府は資金調達に奔走していますが、日本では殆ど伝えられていません。避難した母子の悲痛な表情や声が物語っているものは?日本ができることは何か?など、取材を通じて浮き彫りにしていきます。
また最近ではハマスによるイスラエル攻撃で緊張関係が続いています。そして双方ともに多くの市民が犠牲となっていますが、このパレスチナ問題も、旧エルサレム市街地に目を向けると、そこにはイスラム教徒やユダヤ教徒や多種多様なルーツを持った人々が共存しています。現場取材をすると「ここでは私たちは何千年も前から同じ食材で生きてきたのだ」という。つまり、政治的な問題がクリアできれば共存できるのだと気づかされます。
一方、日本で起きた東日本大震災。震災のあった年の瀬にはすでに人々の記憶が忘却へと変容していくのを目の当たりにしました。その2年後にNHKを退社し、独自のメディアを立ち上げ、映画製作にも力を入れました。シリア問題やパレスチナ問題のみならず、世界中で分断によって暴力が行われています。この意識の分断は権力者にとって都合の良いものです。私たち一人ひとりの忘却こそが分断の根源ではないだろうか?国際社会は誰のものか?という問いが消えることはありません。
情報の裏側には国家の思惑が潜んでいる“認知戦”なるものがあります。ベラルーシから大量の移民がポーランド国境に押し寄せ、軍隊が国境に押しとどめるという騒然とした異常事態が発生しました。国際社会はポーランドを非難し、ポーランド国軍は移民対応に追われたのですが、後に、ポーランド国境ベラルーシルートが開かれたというSNS情報の発信源はロシアが流したものだと言われています。人々はその情報によって動員され、混乱を招き、ひいてはその国の軍事力を削るなどが目的とされています。DX化、AI化などの発展によって戦略的になんらか意図して発信されている場合もあり、注意が必要です。
最後に、広島原爆の被爆者で最新ケロイド治療を受けにアメリカに渡米し移住した笹森恵子さんを取材した際、あのエノラ・ゲイ乗務員の孫に語った言葉を皆さまにお伝えしようと思います。「私には平和を諦めない信念がある。平和を成し遂げなければならない。“勇気と行動と愛”この3つがなければ成し遂げられない。勇気と行動だけでは戦争が起きる。愛と勇気だけだとナイーブすぎる。でも勇気と行動と愛が同時にあれば絶対に平和を成し遂げられる」。
Q:日本でも同じような難民を利用した分断は起きうるのか?現在、力を入れている取材活動は?
A:日本国内でも情報戦は仕掛けられている。疑心暗鬼な社会を作ることが目的。一番の防衛策は交流すること。自分の足と目と耳で確かめること。それ以外は「まだ分からない」と抑制の効いた判断力が必要。なので、現在傾注していることは、このようにニュースを直接手渡しでお伝えすること。
Q:世界的な軍事力強化の潮流は本当に戦争の抑止になるのか?平和の道へと導いてくれるのか?
A:最大の脅威は大衆の無関心。ヒトラーも大衆を国民化していくことを重要視していた。政治の暴走は我々の無関心が生み出している。戦争と自分の暮らしとの関わりに対する実感が希薄なのではないか。軍事力による均衡はあるかもしれないが、まずは我々の意識の持ち方だと思う。
◆堀 潤 氏プロフィール
立教大学文学部ドイツ文学科卒業後、2001年NHK入局。
在局中は、「ニュースウォッチ9」リポーターや「Bizスポ」キャスターなどを担当。
現在は、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」のMCをはじめ報道番組や情報番組に出演、ジャーナリストとしても独自の取材や執筆など多岐に渡り活動している。