賢者の選択 リーダーズ倶楽部事務局
受付時間 平日9:30~18:00
最近、トライアスロンやマラソンをやられる方が増えているのはご存知のことと思います。しかしながら、自分は、あんなには走れない、泳げない、だから健康にはなれないと思っている方には今回の情報は、きっと、そんな方を勇気付けることになると思います。実は、健康を維持するために「適度な運動」がよいことはご存知ですか?今回は、ウォーキングが自律神経のバランスに与える効果についてお伝えします。
健康維持のために運動を心がけている人はたくさんいます。中でも、ジョギング(ランニングを含む)人口は、2007年より開催されている東京マラソンの影響もあり、800万人を超えていると言われています。テレビや沿道で東京マラソンを目にして、ジョギングを始めようと思われる人も多いでしょう。現に、箱根駅伝、東京マラソンの翌日の皇居の周りを走っている人の数は、明らかに2、3倍になっています。そんな大人気のジョギングですが、もしも「健康維持」を望むのであれば、ジョギングではなく「ウォーキング」をお勧めします。
もちろん、運動能力を高めたり、筋力をアップさせたりといったトレーニング効果を求めるのであれば、ジョギングは身近な方法でしょう。しかし、ジョギングのほうがウォーキングよりも健康効果が高いかというと、それは別問題です。実際には、ウォーキングのほうがジョギングよりはるかに健康効果は高いのです。ジョギングは運動量が大きいため、どうしても呼吸が速く、浅くなり、副交感神経のレベルを下げてしまいます。とくに中高年は、そもそも副交感神経のレベルが低下しているので、それをさらに下げるような運動は、健康維持効果があるどころか、かえって体を老化へ追いやる可能性があるのです。私たちの呼吸は、速く走れば走るほど浅くなります。ジョギングよりはランニング、ランニングよりは100メートル走の方が呼吸は浅くなります。そうして、呼吸が浅くなると、血流は低下してしまいます。血流が低下するということは、末梢の細胞や神経に酸素や栄養が行きわたらなくなるということです。血流が完全に止まってしまえば、細胞は死んでしまいます。運動により呼吸が浅くなった状態では、完全に血流が止まるわけではありませんが、危険といっても過言でないほど血流が激減することは事実です。ですから、「健康」ということを考えるのであれば、呼吸が浅くなってしまうような運動はよくありません。健康効果を望むのであれば、ウォーキング程度の軽い運動で充分なのです。
我々の研究によると、現段階で自律神経を確実にコントロールできるのは「呼吸」です。ゆっくりとした深い呼吸をすれば、副交感神経が刺激され、血管は開き末梢血管の血流量が増えるという測定結果が出ています。そして、血流がよくなると筋肉が弛緩するので、体はリラックスします。ウォーキングのよい点は、「呼吸を意識する時間がたくさんある」ということです。呼吸で大事なのは、自律神経の中でも、副交感神経を上げるということ。交感神経を高めて血管を締めるのは簡単ですが、それを広げる作業というのが難しいのです。呼吸は特に吐く息が重要になります。1で吸って、2で吐く、吐くほうを長くします。ゆっくり1数える長さで息を吸い、その倍の時間をかけて吐くだけです。これは息を吐くときには頸部(首・のどのあたり)にある受容体が反応して、それが自律神経を刺激して副交感神経を高めるからです。そうやって吐くほうに意識をもっていけば、血管が開き細胞にも血流が行きます。
では、ウォーキングの時間帯ですが、いつするのがいいのでしょう。お勧めは「夜」です。夕食後から寝る1時間前までに、30分から1時間ほどゆっくりウォーキングをすることが理想です。夜は副交感神経が優位になる時間帯なので、そのときに交感神経を刺激することを進めるなんて矛盾しているようですが、そうではありません。なぜならば、激しい運動をしなさいといっているわけではないからです。自律神経を整えることを目的とした運動は、ウォーキング程度、高齢者なら散歩と思っていただいて結構です。朝は交感神経が高い時間帯なので、血管が収縮して体が硬くなるため、運動でけがをしやすくなりますが、夜の適度な運動は末梢の血管を開きます。とくにデスクワークの人が一日の終わりに感じている肉体疲労はうっ血によるものなので、夜にウォーキング程度の軽い運動をすると、血流がよくなりかえって疲れがとれます。また、末梢血管の血流がよくなるので、眠りの質が上がります。さらに、末梢の血流がよくなることで、肩こりや腰痛、首の痛みなども軽減される効果もあるのです。
順天堂大学医学部附属順天堂医院 教授
小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)氏
順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。1960年、埼玉県生まれ。’87年、順天堂大学医学部卒業。’92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学附属英国王立小児病院外科、トリニティ大学附属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。腸のスペシャリスト、自律神経研究の第一人者としても知られており、アスリートや文化人、アーティストのパフォーマンス向上指導にも関わる。