メンバーズコラム

2016年5月 牧野 義司 氏

今こそ、日本は現代版三国志戦略展開を! ~日米中3か国で外交戦略ゲーム~

2016年5月 牧野 義司 氏

「今こそ、日本は現代版三国志戦略展開を!」―この刺激的なヘッドラインは、いったい何のことだろう?と思われるだろう。結論から先に申し上げよう。かつての中国・三国志の世界で、「魏」「呉」「蜀」の3つの国が互いに権謀術数をめぐらし、つかず離れずの関係を維持しながら、巧みに地域リーダーをめざして外交戦略ゲームを繰り広げた、という話がヒントだ。要は、日本が今、政治や経済、さらに外交面で中国、米国という大国を相手に、利害関係錯綜によって、時に苦境に立たされかねない状況下で、私は、日本がこの際、立ち位置を明確にして、文字どおり現代版三国志的な戦略ゲームを展開することが重要だ、と申し上げたいのだ。こんな話を持ち出すと、日本は米国との間で日米安全保障条約を結んで同盟関係にあるので、戦略外交ゲームなどは考えにくいのでないか、というご指摘もあろう。確かに、日本は、安全保障面で米国との間で安全保障条約を結んでおり、日本にとって米国が重要なパートナーであることは間違いない。しかし日本は純然たる独立国であり、政治、経済、外交などの面で自由度を確保し国益に沿った行動をとる自由を持っていることも事実だ。

そこで私が申し上げる現代版三国志戦略展開というのは、具体的にはこうだ。まず、日本にとって中国との間に問題が生じれば、米国と連携して中国に揺さぶりをかけてブレーキをかける。逆に、米国に問題が生じれば、一転して、日本は中国と連携し米国の行動に歯止めをかける。最大の問題は、日本に問題あり、ということで、米国と中国が連携した場合、踏みつぶされるリスクがある。その場合に備えて、日本は、日ごろからASEAN(東南アジア諸国連合)10か国と連携軸を持っておき、その外交カードを武器に米国・中国連合と相対峙するというものだ。

日米が今、中国覇権行動に歯止め

私が見るところ、いずれ米中2つの大国間の争いが今後の世界の大きな潮流になる。その場合、日本が戦略的に立ち回ってバランサー役、つまり緊張を緩和するための仲介役を担うべきだ、という発想だ。その政治、経済、外交などの戦略ゲーム展開によって、日本は、グローバル世界の緊張緩和に貢献することが重要で存在アピールにつながる。この現代版三国志戦略は今、現実味を帯びている。日本は、対中国問題で米国と連携して戦略的行動をとっている、と言っていいからだ。具体的には中国が「強大国・中国」論を背景に尖閣諸島のみならず南沙諸島でも海洋覇権を意識した軍事行動を起こし、日本のみならずベトナム、フィリピンなどともあつれきを引き起こしていることに対し、日米で連携して中国をけん制する動きをとっているのがそれだ。逆に、米国に問題が起きれば、当然のことながら日本の戦略展開は、中国と連携して、米国に揺さぶりをかけることだ。たとえば、かつて米ブッシュ政権時に米国はイラクに対して強引な軍事行動を起こし、世界中に問題を引き起こしたが、そんな場合、日本が中国と連携して「日中両国で米国債購入を通じて、米財政赤字サポートしているのを止め、逆に米国債を売却しドル売りに拍車をかけるぞ」と揺さぶりをかけるのだ。米国にとっては米国債が市場で大量売りされれば、ドル暴落などで米国財政・金融が窮地に陥るため、方向転換せざるを得ない。まさに日本がバランサー役として大きな役割を果たせる可能性がある。今後、もし過激なトランプ政権が誕生して世界中に波紋を及ぼした場合も同様だ。

日本はASEANを戦略軸に置け

ただ、すでに申し上げたように、米中が連携して日本に揺さぶりをかける事態になれば、日本は踏みつぶされるリスクが大だ。その意味で日本は、世界の成長センターになり得るASEANとの連携を結び、その外交カードをうまく使えばいい。問題は、ASEANが戦略パートナーとして、日本を積極的に選んでくれるかどうかだ。中国は、日本よりもはるかに戦略的な行動をとっている。陸のASEANと言われるメコン経済圏諸国のうちミャンマー、ラオスなどと国境を接する有利性もあるが、中国は南下戦略を積極展開、高速鉄道、水力発電などのインフラプロジェクトに関して、ドル建て外貨準備を駆使して資金支援で積極アプローチをかけている。日本は負けておれない。その意味でも、日本は、米中との戦略ゲームも重要だが、いざ、米中から孤立した場合のリスクに備えて、中国以上にきめ細かなASEAN戦略を日ごろからとっておくことが重要だ。私がASEANの現場を歩いてみても、シンガポールなど一部の国々を除いて、大半の国は経済成長に伴って進む急速な都市化のインフラ整備、公害など環境破壊、省エネの高まり、人口の高齢化による医療や介護ニーズなどの問題に直面しており、日本の出番が多い。もっと言えば、日本だからこそ「強み」を発揮、アピールできる分野が多い。

プロフィール

牧野 義司氏

メディアオフィス時代刺激人 代表
経済ジャーナリスト(毎日新聞・ロイター通信OB)
牧野 義司(まきの・よしじ)氏

1968年早稲田大学大学院経済研究科卒業、毎日新聞社入社。経済記者を経て88年毎日新聞を退社。ロイター通信日本法人に転職。2001年ロイター通信日本語サービス編集長、03年フリーランスの経済ジャーナリスト。06年メディアオフィス時代刺激人を立ち上げ代表就任。現在は日本政策金融公庫とアジア開発銀行研究所のメディアコンサルティングにも従事。


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